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朝日杯での着差が縮まった。
俺の見立て通りなら皐月賞は狙える位置にあると踏んだ。
弥生賞のあいつのインタビューを見て随分と鼻の長い天狗がいると思った。それを囃し立てる彼ら。
そこまで甘くないよと内心しめしめだった。
皐月賞当日の朝。
俺は調整ルームで和也とすれ違った。あいつは馬場を歩いてきたらしかった。
「珍しいな。お前が朝早くから」
「珍しく目が冴えちゃって」
「そうか」
あいつは自室へと戻っていった。
俺はメンタルがやられてるんだなと感じた。
アカシは断然の1番人気だった。でもそんなプレッシャーは経験してるからなんてことはないだろう。
だとしたら。これは俺の推察でしかないけどあいつはまだ立ち直ってなかったんじゃないか。
まずは自分の落馬事故。きっと根っこはまだあのときの拗ねてた和也のままだったんじゃないか。
二宮さんのことだって大きな傷になっていないとは言えない。あのときの9歳の和也が目に浮かんだ。
どこでどうそのスイッチがあるのかは分からないけどあいつの中で皐月賞というワードは忌まわしいものだったのだろう。
本人の意思に関わらずそれが出てメンタルがやられた。そんな感じかな。
＊
俺がこう述べるとAちゃんは目を何度も瞬きをした。
あいつから何かを聞いてるんだろうなと感じた。おおむね正解なのかな。
「これはあくまで俺の推察やから。Aちゃんは気にせんでええしあいつにも聞かない。尋ねたところでやしね」
「そうですか……」
もう随分と話してることに気付く。
夏に取材を受けたときの倍の時間は話してしまっている。
「Aちゃんは時間大丈夫？」
「私は平気です。武岡さんの方こそ平気ですか？」
「俺は構わへんで。それより俺はAちゃんを拘束したらあいつが何言うか怖いわ」
あいつはAちゃんのことになると困った奴になる。
あいつに色々言われるのはごめんだからね。
「……それでゴッドオブウインで初めてアカシを負かしたんですね」
「そう。あれは上手くいったね。ゲート上手く出て先行集団で折り合ってそこから良い脚使って勝ってくれた。あそこで勝てたのは大きかった」
あのレースをもう一度やれと言われても出来ない気がする。
今でこそ完成していってるゴッドオブウインだったけど3歳のときはまだ甘かったから。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
