To the【ars】 (ページ1)

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今思うことページ1

パドックに出ると、いつもならファンの声やカメラのシャッター音が聞こえるはずなのにそれがない。馬の蹄の音と馬具の音だけが響く。

新型コロナウィルス感染拡大防止のため無観客競馬が行われるようになって早3ヶ月。ファンの姿をずっと見ていない。
ネット投票のみで馬券を売っているが、幸い売り上げは激減というわけではなく改めて日本の競馬ファンの馬券の購買欲を感じた。

ジョッキーたちも最大限で感染予防を徹底していて、レース以外ではマスクを着用したり土日の移動制限を設けたり、1鞍につき1000円を積み立てて募金をしたりとかとにかく色々している。JRAの職員に感染者が出たが競馬関係者に出たとは聞いておらず、無観客でも毎週競馬を行っている。

色々と不便だとは感じる。だがプロ野球もJリーグなどが出来ない中競馬だけは開催に漕ぎつけている。世界の競馬を見れば開催中止のところもまだあるし、なんとか無観客での開催を始めたところもある。
俺たちはまだ毎週競馬に乗れている。それだけまだマシといったところだろう。

「寂しいですね」

「まあな」

無人のスタンドを眺めながら武岡さんと話す。この時期は毎週東京でG1があるから、移動制限でこの人も毎週土日は東京にいる。京都で乗りたい馬もいたので残念ではあるだろうなと心中は察する。

「でも俺たちは馬に乗れている。ファンたちも競馬を楽しんでいる。それだけまだマシやな」

「ですね」

「競馬は売り上げの一部が国庫に納付される。そこに意義はあると思わんと」

「それにしてもダービーが無観客になるなんて、今年の初めには思いもしませんでしたよ」

今のところはダービーの週まで無観客競馬と発表されている。無観客のダービーは戦時下の76年ぶりだそうでそれだけで異常事態と分かってもらえるだろう。

「お前は90年のアイネスフウジンが逃げ切ったダービーのときはおらんかったもんな。20万人と0人のダービーに乗ることになりそうや」

「ベテランですね」

「何か含みがないか？それ」

「ありませんありません」

こうして武岡さんといつもの通り喋れるのも競馬があるからこそ。有り難いよ、本当に。

「まあ俺たちに出来ることはこれまで通りかからないうつさないようにすること」

「そしてファンに良いレースを見せることですね」

「そういうことや」

ファンがいないとやはり寂しい。でもまた歓声が戻ってくる日まで俺たちは競馬に乗り続けようと思う。