４９ Side Jun ページ8
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朝の調教が一段落し、ゆったりとした空気が厩舎に流れる。俺が厩舎に入ると馬が一斉に俺を見るのが毎回面白い。
一頭一頭の顔を見ていく。
アカシの前に来るとアカシは馬房の奥に入ってしまった。
やっぱりアカシに好かれてない。
天皇賞(春)までおよそ2週間余り。
前走後の疲れもリフレッシュされて時計を出す追い切りもしている。
今のところ順調だ。
事務所に入ると応接間には翔くん以外の3人がソファでうだうだしている。
そういえば翔くん最近トレセンに来てない。
「潤くん。潤くんのパスタ食べたい」
「あっ俺も」
「俺も」
一人暮らしが長いから料理は一通りできるしこの人たちに振る舞うのは好きなんだけどねと思いながら上に行こうとしたら誰かが戸を引いた。
「……こんにちは」
振り向けば野々村さんだった。
珍しく一人だ。
「どうも秘書さん」
「秘書ちゃんだ」
「こんにちは野々村ちゃん」
「野々村さん翔くんは？」
「代表は今フランスにいらっしゃってて……」
「フランス？」
アカシの凱旋門賞挑戦のための下見？とは思ったものの、それにしては彼女の顔色が優れない。
胸騒ぎがして階段を下りる。
「ねえ。翔ちゃんの身の回りで何かあったりする？」
こう言ったのはカズ。
カズなりに何か感じ取ったのだろう。
「……そのことで皆さんにご相談が。代表のことですから皆さんにも伝えてらっしゃらないですよね」
「野々村さん翔くんの所座って？」
3人にはちょっとご飯を我慢してもらって俺は簡易キッチンで飲み物を準備する。
野々村さんにはコースターを引いてアイスティー。大野さん相葉くんはアイスカフェラテ、俺とカズはアイスコーヒーを用意して俺は席につく。
そして彼女が口を開いた。
「あれは1月のことでした―――」
武岡さんの紹介で樋口良隆と名乗る男がやって来た。
その男はオーナーブリーダーになろうとしていた。
翔くんにRHを抜けて育成牧場の代表に誘った。
彼女の話を要約すればこういう感じだ。
「これがその計画です。私ももらって拝見しました。計画としては素晴らしいものだと思います」
しかし相手は生き物だ。そう上手くいくか。
彼女の感想はそんなところだろう。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年1月22日 9時
