５３ Side You ページ12
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私は今天皇賞(春)の原稿を書いている。春天はすっかりアカシ、ゴッドオブウイン、オペラテラスの3強対決の図式だ。
年度代表馬のアカシは前走の日経賞で快勝、ゴッドオブウインは大阪杯で善戦マンを返上するかのような走りを見せて衝撃を与えた。オペラテラスは前走の阪神大賞典で長距離なら俺だという走りだった。
アカシの広報としてはアカシに比重を置きつつも他の馬に関しても手厚い文章を書きたい。
まずは取材の感触、レースの見解から始め、次に二宮和也、武岡豊和、福沢祐二のそれぞれの鞍上に触れる。そこから当日の楽しみを書いていこう。
「A」
「あっ……」
真横に二宮先輩が。
「えっ？まさか俺がいたこと忘れてた？」
すみません忘れてました。
今日は月曜日。全休日はこうして一緒に過ごすことが多くなった。
「電話終わったんですね」
先輩は数分前に電話がかかってきてベランダで話していた。
「ああそのことなんだけど」
先輩はどっこいしょと向かいの椅子に座った。
「俺、宝塚終わったらフランスに行くことにした」
「えっ？先輩が？」
「何だよその驚き方」
「だって……」
先輩はどっちかというと内弁慶で日本で稼ぎたいというタイプに見えるし実際似たようなことを言ってたから。
「アカシ凱旋門目指すじゃん？でもさすがにパッと乗って勝てるほど甘くはないと思うのよ。だから海外で経験積みたいと思って。向こうの騎手を乗せろとかクレールにしろとか言われるの癪に触るし。まあ付け焼き刃とか言われるんだろうけど」
二宮先輩は亡くなったお父様のために、皆さんのために騎手をやっているように感じていた。騎手としての向上心を見せる先輩は珍しかった。
「武岡さんに海外乗りたいって言ったら人紹介してくれて。小谷智之さんってフランスで調教師やってる日本人の。その人は俺を歓迎してくれてそれがさっきの電話だったわけ」
「そうだったんですか」
二宮先輩が日本にいなくなるのか。そう思うと寂しくなるが全く会えなくなるわけじゃないし声や姿は今の時代見られる。それに先輩のためなら応援できる。
「頑張って下さい」
「ああ」
今の時代タダで海外の普通のレースも見られるらしいぜと言いながら先輩は原稿のための資料をめくった。
「俺とアカシをかっこよく描写しといてよ」
「善処します」
よろしくなチームアカシの広報さんと綺麗なウインクをされた。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年1月22日 9時
