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「飯塚は大人っぽくなったよ」
「本当ですか？」
「うん。びっくりしたよ、テレビで見てた飯塚Aが目の前にいるんだから」
ビールを飲む。
お酒を飲むのは元々好きだけど先生と飲むお酒は格別だった。
「いいのか？俺と二人きりでいて」
「いいんですよ。ここは潤くんのいとこさんの店ですし、それに……付き合ってる人いませんから。じゃないと先生を追いかけません」
先生は？と聞きたかったけどやめた。
いくつ時を重ねたって先生は十字架を背負ってるんだから。
「そっか」
先生はビールを飲んだ。
いつもこの人の心の奥底は分からない。
私は突き放された。
傍にいることを拒まれた。
今こうしていられるのは「恩師」と「元生徒」として会ってもいいかと私が言ったからだ。
先生にとって意味はないのかもしれない。
怖い。
また言われたら私は頑張れるのだろうか。
私たちは酒を飲みながら、近況を話した。
でもどうも上澄みだけを掬っているようにしか感じられなかった。
明日も撮影だと言うと先生は早く帰った方がいいんじゃないかと言った。
確かに9時に入りだからその前に起きないといけない。
今てっぺんを越えようとしている時間だった。
「先生」
「ん？」
「またこうして会ってもいいですか？」
こう言うと先生は笑顔を返してくれる。
「いいよ。じゃあ連絡先。今は毎日会える環境じゃないから」
ほらとスマホを出される。
そう言えば先生のスマホを初めて見たかもしれない。
黒の手帳型のスマホケースだった。
「あっはい」
私もスマホを出して、ラインを交換する。
友達の中に櫻井翔とあるのが何とも不思議だった。
「じゃあ仕事頑張れよ」
私が誘ったのに先生がお金を出して、タクシーまで呼んでくれた。
私は乗ったタクシーの中で先生に頭を下げているとタクシーが発進した。
偶然先生に会えて、先生と飲むことが出来るなんて楽しかった。
あまつさえ連絡先を交換できて、また会ってもいいと許可してくれて……。
私は明日から大丈夫だろうかという気分になった。
やっぱり私は先生の傍にいたいと思った。
たとえ「元生徒」という立場だとしても。
理由なしに好きだと思った。
窓からは月が見えた。
あの日の先生のようなか細い月だった。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2018年10月17日 9時
