１６９ Side S ページ29
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「飯塚、上見上げてみ？」
丘の段々を利用した花畑は下から見上げるととても綺麗だ。
「今からあの丘の上行ってみるか？」
場所を変えようと思った。
そこで。
また手を繋いで登っていく。
俺は何が怖いんだろう。
拒否られるのが？そうなんだろう。
今の彼女が俺を好きだという証拠はどこにもない。
だからといって伝えないのはズルいし、逃げだ。
なのに言えそうにない。
俺のヘタレ。
丘を上りきる。
そこからの景色は絵に描いたように綺麗だった。
ベンチに座る。
彼女から学校の屋上の話が出る。
彼女が卒業した後、鍵が壊れていることを校長が把握し、鍵が新しくなり入れなくなった。
あそこには復職してからお世話になっていたが同時に彼女との思い出が多すぎて行きたくないと思ってたからホッともした。
「……飯塚」
「……何ですか？」
「いや、何でもない」
つくづくヘタレだ。
下らないことは口に出せるのに大事なことは言えない。
繋いだ手が汗ばむのは太陽のせいじゃない。
伝えよう、言おうとそればかりに気をとられ頭の中がグルグルだ。
「櫻井先生」
そう言った彼女に手をギュッと握られる。
「私と先生はどうなるのが正解なのでしょうか？」
「……飯塚？」
そして彼女の真っ直ぐな告白。
愛してるって言われたらさ……。
「……A」
ごめんね、ヘタレな俺で。
「……これが正解」
今までの想いを込めて彼女を抱きしめる。
そして想いを言の葉にやっと乗せる。
唇に乗せる。
もう離したりしないから、ずっと俺の傍にいて―――。
俺は彼女を連れて家へ帰る。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2018年10月17日 9時
