月水晶５【S.S】 (ページ20)

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「先生」

彼女が呼ぶその声をいつから愛しいと思ったんだろうか。

いつから苦しく思うようになったのか。

雪乃を殺した俺に他人に恋する資格はないと思っていた。
だから他に何もいらない、今までの俺を殺して教師としてのみ自分を生かそうと思っていた。

最初は復職後初めて受け持ったクラスの生徒の一人だった。
校長からの打診を引き受けたときも芸能人でも一般人でも大して変わらないだろという軽い気持ちだった。

彼女はすでに人気の若手女優で、俺も知っていた。
初めて教室で見たときはあっ飯塚Aだと思った。

学校を休んでも仕事だろうからと深く気にも留めなかった。
だけどその欠席に違和感を持ち始めてマネージャーさんに連絡すると自分で学校に行こうとしないらしかった。

理由があるのではと思い、彼女と仲が良かった二宮に聞いたら、原が彼女にあからさまな敵意を向けているという。

このままじゃ駄目だと思った。
芸能科じゃなく、普通科の、しかも偏差値の高い月ヶ丘に通っているんだから、芸能生活をやっている彼女のサポートをしてやらないといけない。

そう思って俺は彼女の家に直撃した。

そこで知った彼女の強さと覚悟。
生徒ながらかっこいいと感じた。と同時に彼女の繊細さを感じ取った。
彼女の十字架は重くこのまま潰されてしまうのではないかと思った。

だから学業面で彼女の屋台骨になれたらと思いそれを言った。

きっと彼女に必要なのは彼女を「飯塚A」としてではなく、彼女自身として見ることなのだろうと考えた。
だから「教師」として彼女の不足分を補うように放課後にマンツーマンの授業をしてきた。

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