月水晶５【S.S】 (ページ11)

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「……飯塚」

先生の黒い瞳はまた私を見る。

「……はい」

「7月。仕事はどうなってる？」

「ドラマが終わって緩めですよ」

「じゃあさ、学校が夏休みになった後の平日、オフある？」

「えっ……と……」

先生の言葉の先が分からなくて困惑する。

「あっ、オフはやっぱ外出るの控えてる感じ？」

「いえ、普通に変装して出てます。あの……」

「校長が有給取れってうるさいから休もうと思って……だからさ、出かけない？」

「……私と、先生が？」

「他に誰がいんだよ」

私と先生が？
一緒に？
それって。

「駄目？やっぱり」

その瞳の動かし方がズルいと思った。
断るという選択肢があるのだろうか。

「行きます。行かせて下さい」

先生はニコリと笑う。

「また連絡するから」

「……はい」

先生の意図が分からないけど、先生と二人でお出かけできると言うのなら、それに縋りたい。

その後は適当に食べて飲んで話してという時間を過ごした。
そして店の前で別れた。

物足りないと思ってはいけない。
今まで先生に会おうともしなかったんだから、こうして会えるだけでも十分過ぎるぐらいだ。
そしてお出かけできる。
なんて贅沢な。もっとを求めたら罰当たりだ。
それに先生だって。
私はまた遠ざけられるのが怖い。

タクシーで家に帰る。

マンションからは月が見えなかった。

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