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しばらくは二人とも黙ったまま歩いていた。
その沈黙を破ったのは私だった。
「ねえ彩華。いくつか質問していい？」
彼女はコクリと首を縦に振る。
「松本とはいつから？」
「去年の10月ぐらいから」
「あんたから告白したの？」
「うん……入学式で一目惚れして……」
「松本はあんただけじゃ……なさそうだな」
私は苦笑した。
「長年付き合ってる彼女がいるって……告白したときに言われて……私はそれでもいいって言ったら、彼がじゃあ付き合おうって」
「逢うのは学校だけ？」
「ううん……学校の外でも……」
心の中で舌打ちをした。
二股かけておいてその上学校の外でも関係を持つなんて……。
私は彩華のことを知っているようで知らなかったんだなと今回の件で思った。
「ごめんね、彩華……。私何にも気づかなくて」
いつも話を聞いてもらってるばかりだから、親友の悩みを聞いたことがなかった。
そういえば美玖、和也、雅紀のことも知っているようで知らないのかもしれない。
「ううん、いいの。……私が選んだことだから……今は傍にいられるだけでいいの……」
この言葉で確信した。
彩華は本気で松本のことが大好きで、身を滅ぼしても構わないと思っている。
一方で松本はどう考えても彼女と遊んでいるようにしか見えず、いつ切ってもおかしくない。
愛が均等になっていない。
これでは彩華が崩れてしまう。
「彩華のために……私口外しないから……悩んでいたら相談して。恩返しさせてよ……」
「うん……ありがとう、A」
彩華にようやく笑みが戻ってきた。
彼女は五人姉弟の長女で、しっかり者である反面、悩みを一人で抱えてしまうということがよく分かった。
しばらく歩いて私の家に辿り着く。
「じゃあ、バイバイ」
「じゃあね……そうだ、A。櫻井先生って紳士だね」
「……そうだね」
彩華は手を振って去って行く。
とりあえずの元気は取り戻したようだ。
今日は櫻井先生の色々な顔が見られた。
しかし松本が案の定裏の顔があったように、先生にももっと別の顔があるのではないかと思ってしまう。
そうなると、紳士的で優しい先生は仮面になってしまう。
そう考えたために3回目の頭のポンポンは何の感情も持たなかった。
やはり教師へは憧れで十分だ。
そもそも私は二度と恋なんてしないんだから。
そう総括して私は家に帰って行った。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2016年12月16日 11時
