山裾追憶録～Lost Memories～ (ページ6)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:3,399 hit

Question-2 ページ6

2話～平凡な～

～山裾中書斎～

「おー...」

連れて来られた部屋は思っていたより本格的な場所だった。

さっきまで見ていた図書室の本棚と比べてこちらの本棚は少し黒ずんでおり、
なんとなく古風な雰囲気を醸(かも)し出している。
なんとなく見たことがある...と思ったが、
昔見た書物になんとなく似ている気がする。

その本棚にはこの部屋と共に時間を重ねてきたであろう分厚い本達が所狭しと詰め込まれている。
肖像画に顔が載るような髭もっさりの偉人達が、
筆ペンか何かで懸命に書き残したであろう本も...

うひゃあ。失礼だけど想像したくない。
というか今日はいらない想像が多い気がする。

「意外でしたか？」
「あぁ、なんというか変な意味で想像通りだ」

良い意味とも悪い意味とも言えないからな。

「しかしまぁ...あれだな。
年季が入ってる割には結構綺麗なんだな」
「定期的に掃除してますからね。
雰囲気が際立っても、ほこり塗れの本を読むのは嫌じゃないですか？」
「なるほど。そりゃ嫌だな」

そう言って苦笑してみると、
その女子もくすくすと小さく笑い出した。

あー、平和だ。

...なんというか本当に平々凡々とした会話だ。
というか今日1日何か気分がおかしい。

ついさっきまで『ｵｵｶﾐｻﾏ!ｺﾉﾀﾞｲﾁﾆｵｵｲﾅﾙｵﾒｸﾞﾐｦﾀﾏﾜﾘｸﾀﾞｻｯﾀｺﾄｦｶﾝｼｬｲﾀｼﾏｽ!!!(おお神様！この大地に大いなるお恵みを賜りくださったことを感謝致します！！！)』とか言ってた信者共のお祈りを聞いてたせいでおかしくなってるのかな。
いや、そうに違いない。

...そんで、本題はどこ行った？

「あ、そういえば本を探していたんですね。
すみません、楽しくてつい...」
「あーそうだったな。
いいよ、たまにはこういう落ち着ける会話もしないとな。
クラスが混沌としすぎて頭がおかしくなりそうだ」

実際おかしくなってる。
自分で言うのもアレだが普段の俺は実に普通な男子であるはずなのに、
今日の俺は実におかしい。
発言も思考も。

アレか。いわゆる洗脳ってやつか。

『...面白いね、君』
「ん？」

横の机の席で書物を読んでいた男子がこっちに声を掛けてきた。
何だ、今日はよく声を掛けられる日だな。

『さっきから結構話は聞いてたけど、
なんというか...面白いね』
「全然説明になってねえ」

その男子は席を立ってこう言った。

『...僕は"桜(さくら)木(ぎ) 望(のぞむ)"。
よろしくね』
「...？」

何か違和感がした。