好きと推し【江口拓也】 (ページ8)

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宏太朗と梅ちゃんは案の定泊まった。

泊まったと一口に言っても、酔いつぶれて寝たの方が正しいかもしれない。

Aはおれのベッドで寝ていて、彼女の隣で寝たら俺も多分身が持たないから、ソファーに身を沈めた。

目を瞑れば、思い出す彼女との高校時代。

特別仲が良かったわけではないけど、彼女とはよく話していた。

…好きな人と、話したいという思いも相まって。

「…懐かしいなぁ」

彼女のいない同窓会ではこんな風に思わなかったのに。

何故かAと再会したら、高校時代が懐かしく、輝かしいものになった。

「ふふ」

Aはもう、俺の彼女なわけで。

好きな人が自分の恋人であるこの状況に思わず笑みがこぼれた。

嫉妬も、好きも全部伝えられるような関係───────。

高校生のときから夢見た関係に30過ぎた今なれるなんて思ってもいなかったから。

「好きだよ、A」

本人のいない所でしかまだ名前で呼べない。

愛おしいその名前を呼ぶのもはばかられるんだ。

君のことが好きで好きで仕方なくて。

守りたくて守りたくて仕方がなくて。

「A」

思わずまた呟いた君の名前は、誰に拾われることも無くただリビングに響くだけだった。