64.注意 ページ19
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「江口、お風呂上りに早々と申し訳ないんだけど、聞いてほしいことがあるの」
「聞いてほしいこと？」
俺が繰り返すとAは神妙な顔で小さく頷いた。
壮馬のほうに目くばせすると彼は困ったように目を逸らした。
それだけで何となく話の流れが読めた俺は“ん、いいよ”と一言告げたのちに壮馬の隣、Aの目の前に座った。
「私には昔付き合っていた恋人がいた。その人は江口はもう会ってる、あの人で」
「…うん、大丈夫だよ」
彼女が傷つく内容を言わせるのは少しだけ嫌だった。彼女の傷をさらにえぐるような気がしたから。
けど彼女はやっぱり強い人だった。
「サークルに誘われて、その子の後をついていったら、無理やり初めてを奪われた。泣き叫ぶ私を無理やり貫いてきた人がいる」
それは所謂ヤリサーというものだった。
それに気が付かず、私はのこのこ釣られに行ったエサになる。
そう続けた彼女の言葉に胸が痛くなる。
無理して続けなくていい、そう言いかけた口を噤んだ。
せっかくの彼女の決意を、俺が邪魔をしてはいけないと思ったから。
「ふさぎこんでた。もう誰も信用しないと決めて。…でも、そんな私を気にかけて声をかけ続けてくれたのが、元カレだった」
傷ついている時に優しくしてもらうと、なぜか恋に落ちやすい。それがそのまま、彼女に適応してしまった。
そして彼女は彼に尽くした。それはもう尋常じゃないくらいに。
けれど彼女は、思いもよらないことを元カレの親友から聞かされる。
「アレを仕組んだのは、元カレだった」
すべて、彼の計算だった。
AAという女性を落とすために考えられた、策だったのだ。
「もちろん私は問い詰めたんだけど、彼は知らないの一点張りで。あろうことか、彼も私を無理やり貫くようになった」
それだけでなく、身体的な暴力も彼は加えるようになって。
「警察に相談して、無理やり別れたんだ。そしたら今度は、私の偽りの噂を流すようになった」
そんなに苦しい環境にいたのに、彼女は逃げなかった。
“江口のことを思い出すと、どんなことでも頑張れたんだ”という彼女の言葉がより強く重いものになっている。
「これが全部。…もし、そんな汚れた私なんて嫌だと思うのなら、今別れてほしい」
彼女の強い言葉が、俺の心に響いた。
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