Little Red Riding Hood【コロイカ】 (ページ7)

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序章:隠密の術(7) ページ7

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息が詰まりそうになった。

本題はそれなのに。

スプラハザードの話題を挟んだせいか、言葉が喉につっかえて飲み込めも吐き出せもしない。

　彼女はといえば、疲れているにも関わらず、文句も言わずにオレからのフリを待っている。なんてお人好し。こういう人ほど本心が読めない。

　ずっと、何でもない話をしていたい。スプラハザードの話。新しく出たブキについてとか、最近のトレンドについてとか。

　…でも。

　オレの用はノタ話をするためじゃないから。

　はやく彼女を開放しなければ。

「…なんでキミはアーミーをフったの？それも、あんなにドライにさ。オレがあの立場だったら、かなり傷つくよ？S4の中では一番弱いしマニュアルマニュアルうるさい奴だけど、容姿はいいし一途だから割と良物件だったと思うけど」

　やっぱりオレは最低だった。

　ききたいことを直球にぶつけてはみたが、失礼だとは思う。アーミーに対してもだけど、知らない異性に恋愛沙汰をなぜそんなことも気がつけなかったのか。自分が愚かすぎて、自虐的に笑うことしかできない。ここで咄嗟にそれっぽい作り話でもできたなら。…いや、見破られて終わりか。

「うん、やっぱりやめ」

「本当はとても嬉しかったんですよ」

「えっ？」

　つい間抜けな声が出た。

　え、何。答えてくれてるわけ？

　それ本気かよ。

「体格もよくて、個人的には顔も好きです。実力も申し分なし。わたしにはもったいないくらいの方です」

　彼女の落ち着きがなくなった。ふわふわと視線を泳がせ始める。

「そんなアーミーさんは、たった1回の出会いをよく覚えてくれていました。あのときとはブキもギアも違うのに、すぐにわたしだと気がついてくれて。そこまで一途なら、彼に寄り添っていればわたしはきっと幸せにしてもらえると、謎の確信が生まれていたくらい」

　そう語る声が震えだした。

「…けれど、過去に会ったことがあろうとも、わたしが知っているのはS4としてのアーミーさんだけなんです。その姿は噂や想像でしかない。容姿やライセンスを見ただけで彼と上辺だけの付き合いをするのは良くないかなぁと」

　彼女の細い腕が、夏の風を受けながら空を仰いだ。

　分厚い雲がかかっているために星は煌めいていない。なのに気温は寒いと来たものだ。まったく不思議な夜空だった。

　特に今晩は。
　お互い知らない同士の異性と路地裏で2人空の下、なのだから。