Little Red Riding Hood【コロイカ】 (ページ14)

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序章:隠密の術(14) ページ14

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　オレは繋がっていた手に指を絡めて、空いた左腕を女の腰に回した。

　そのままひょいと持ち上げる。

「ちょ、うわ!?」

「…ぐ」

　ひょい、なんて擬音はちょっと調子に乗った。

　上半身がぐらつく。そりゃ、掴んでいるのが手だから仕方がない。腕なんて関節でいくらでもうごかせる。けど、だからといって流石に初対面の女の胸元に手をやるような野暮な真似はやりたくない。

　いや、だからイカにホネは無いんだけどさ。

「…さてお嬢さん、そろそろ帰りましょうか」

　決して軽いとは言えないが、これが女性の健康体なのだろうか。バトラーだからか、程よく筋肉がついていることが服の上からでも伺えた。

　だとすれば、自身の運動不足加減を恨むしかない。

「ちょ、腕をわなわなさせんな、落とすぞ」

「ひっ」

女は過剰に震えていた。

これからどこに連れて行かれるのだろう。本当に帰してくれるのだろうか。

　…といった具合か。

「そんなに心配しなくても、ちゃんと帰してやるっつの」

　落書きと貼り紙だらけの電柱や散乱したゴミを避けながら左の角を曲がり、光がぽつんと見えてきたところで、女を地面に下ろした。

自然と、繋いでいた手も解ける。

「ほら、あそこまで歩いていけ」

　オレが指を差したその先では、車のヘッドライトや店頭のネオン看板、街灯なんかが混ざりに混ざって白い光の塊になっていた。

　オレの指なんざ、見えてないだろうけども。

「オレは眩しいのがあんまり得意じゃねーんだよ。これ以上、あの灯りには近づけない」

　強い光を放つものが苦手なのは間違っていない。普段から昼間でも薄気味悪い暗い場所にいるのだから。

　しかし、一番の理由は自分の顔を見られたくないからだ。
　せっかく『天の声』なんて面白い誤解をされたんだから、隠しきれるまでそれで行こうと思った。それだけのこと。

　あの塊に近づきすぎる必要はない。他人からの物理的な見え方を知る手段はいまのオレにはないのだから、顔に光が射す前にここで保障をかけておこう。オレの道案内(？)は、ここで終わりだ。あぁ、なんと後味の悪い。

「…」

「…？ほら、早く行けって」

　この女にとっても怪しいオトコに抱かれたまま街中に出られることは望んでいないだろう。誰かに見られて変な噂が立つのは双方に不利益だ。

　露天商としてなんとか取り繕いながら生きてはいるが、この生活もいつまで続くのだろうか。