Little Red Riding Hood【コロイカ】 (ページ12)

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序章:隠密の術(12) ページ12

「危ねぇよ、馬鹿」

「どぅおふっ」

　腹いせのように、また、隙をついた反撃のように女の肋を小突いた。

　かなり食い込んだ。第一関節分くらいまで埋まったと思う。でもそれは女に肉がつきすぎていたせいではなく、オレが肋骨と肋骨の間の、一番痛いところを突いたせいだ。

「、ったぁ〜…っぐ」

　突かれた部分を両手で抑え、前傾姿勢をとる女。痛みに悶えているようだった。

　それも当然か。弁慶の泣き所と称される向う脛を強打したくらいには痛いはずだ。

　本人に悪気があったわけでもないのに、これはやり過ぎだったかもしれない。

　イカに骨は無いんだけどさ。

「…なぁ」

「ｯ、ごめんなさい、周りが見えてなくて…お怪我はございませんか？」

「____」

　＿＿＿へぇ、怒らないんだ。

「…オマエの太刀くらい、超絶的身体能力で躱してやったし」

「超絶的身体能力を備えている方で安心しました」

　面白い。いつだって斜め上の反応をしてくる。期待を裏切らない。きっと100年に一度生まれてくるかこないかの逸材だ。

　逸材とかそんなのわかんねーけど。明らかに天然とは違う、お人好しとしての馬鹿さ加減というか。

「で、光とか影が何だって？」

「あ、それは、何もないと思っていた場所で僅かでも光や影の動きを視覚情報として得ると、自分の想像と違ってここには何かあるのだと思ったら怖くなるって話です」

「なるほどな」

　一理ある。生物はすべて『無知』を一番恐れている。そこに思い込みが働いていたならばなおさらだ。

　特に身の危険を感じるような状況下では、理解より先にすべての感覚を捨て去って無に還そうとするのがヒトって生きモンだ。

　つまり、

「オマエはオレも怖いんだな？」

　

「…さぁ…どうでしょうね」

　長い間を置いたあとに答えた。

　暗闇に突然現れた声の主は男でありながら、金品を巻き上げることもカラダを嬲ることもしない。他愛もない話をふっかけてくるだけ。

　それが女にとってはオレを怪しむに十分すぎる要素なのだろう。能ある鷹は爪を隠す、といった感じだろうか。優しく接してくれる者ほど、何を企んでいるのか知れたものではない。コイツはオレをどこかで恐れている。

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