Little Red Riding Hood【コロイカ】 (ページ11)

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序章:隠密の術(11) ページ11

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　視覚が奪われれば、失われた感覚を補おうとして他の感覚が敏感になる。けれど、それは障害者の場合であって、普段から視覚を使い慣らしている健常者は『少しだけ周りの音が聞こえやすくなった』程度でしかないだろうに
　

　情報の9割近くをを視覚から得て認識する脳だから、暗闇でこそ何か手がかりになるものをみつけられないかと必死になるのが普通なのでは？

「…なぁ大丈夫？」

「うひょはひっ」

　とりあえず、アロハと一緒にいてたのを見ていたということは黙っておこう。

「夜の路地裏は暗いデショ、」

「だ、大丈夫ですよ、歩けてるので」

「歩いてても進んでねぇじゃん」

「あれ、わたし進んでないですか」

　こいつは笑かしにきてるのか。

「イカフォンでもつければ？」

「えーっと…わたしのイカフォン氏は本日モンガラキャンプ場で水没死しまして」

「あーそれは災難なことで」

　女が路地裏から自力で脱出するまでにかかったであろう時間を、お喋りに付き合わせる時間に転化してもバチは当たらないだろう。最後は道案内してやればいい。
　せっかく面白そうな奴を捕まえたんだ、みすみす逃す手はない。

「なんで目ｪ瞑ってんの？」

　足音を出さないように一歩二歩と女に近づく。すると、気配を感じとったのだろうか。フッとこっちに顔を向けた。目は閉じたままだ。

「だって、怖くないですか」

　怖い？

「自分が真っ暗だって決めつけた場所に、」

　フッ

　頭上に影が差した。その刹那。

(………！)

　振りかぶられた何かが目前に迫り、声も出なかった。腕だ。その腕はものすごい勢いでまっすぐオレの右肩に振り下ろされてくる。

　人にぶつかることを想定していないがために、手加減がない。たかが女の腕力だが、これでは肩が外れる。砕ける。

　なぜかスローモーションにみえるのは、世に言う『走馬灯』というものだろうか。右肩、いままでオレの役に立ってくれてありがとう。酷使ばっかりで悪かった。あぁ、右肩。

　そして、粉砕死を遂げたのだった。

　と思ったが、その手は綺麗に俺を避け、何かを象るように歪な弧を描いただけで女の両脇へと収まった。

　少しでも右にずれていたら、確実に直撃していた。粉砕…は流石に大袈裟だが、脱臼したり骨にヒビが入ったりする可能性は十分にあり得たはずだ。

「影とか光とかを見、」

　クソ、怖いのはこっちだっつーの…