Line４：苦手【暁 side】 ページ7
▶
客人だとの連絡を受け、研究専門学校の応接室に向かった暁。
この部屋に通されるからには“客人”とやらもそれなりの人物なのだろう。
(お偉いさんとの面会は―――苦手だ)
部屋の前で短い溜息をつくと、襟を正してドアを開ける。
『お待たせいたしました、北條暁です』
慇懃な態度の暁を、“客人”はくすくすと笑いながら迎え入れた。
「そうやっていると、どこぞの貴公子のようだな―――暁」
『―――直兄さん？』
暁を呼びだした“客人”が鈴城 直だと知るや否や、彼は応接の扉をバタンと閉じて頭を掻いた。
『普通に連絡をくれればいいだろう？変な緊張したじゃないか……』
「連絡をしたくても、君は電子端末を持たないじゃないか」
『―――……使い方、分からないんだよ』
正論を指摘され、視線を逸らせる暁に、直は一冊の本を手渡す。
「知っているよ―――だけど、連絡が取れないのは不便だ。いい加減、通話とメッセージ機能の送受信だけでも覚えてくれ」
『……善処する』
この会話も、もう何度目になるだろう。
一向に“善処”する様子のない暁に、直は苦笑いを浮かべる。
彼の苦笑いを横目に、手渡された本に視線を移す暁。それは、直と共同研究した内容をまとめた論文を発表した、学会誌だ。
『掲載されたのか？』
「当然だろう？今回の学会誌の最注目トピックだ」
『流石、直兄さん……』
鈴城 直とは、着目点や考察内容が似ていた。
自然と共同研究を行うようになり、幾つもの画期的な研究成果を世に送り出している。とは言え、電子機器の扱いが苦手な暁はアナログ派。データの解析すらも“魔法”に頼る為、論文の打ち出しや投稿などは全て直に任せていた。暁は尊敬と親しみを込めて直を“兄”と呼んでいる為、年齢も所属も違うというのに仲の良い二人を兄弟だと勘違いしている者達も多い。
だが、尊敬する鈴城直と、兄弟だと間違えてもらえるのは、暁にとって悪い気はしない。
実際のところは親戚ですらないが、あえて否定もしなかったため、噂だけが独り歩きしていた。
迷惑なら、直兄が否定するだろう―――
そう軽く考えていたが、直が否定する様子はない。それが、暁には嬉しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しゃっぽ・kohaku | 作者ホームページ：なし
作成日時：2021年12月5日 9時
