Line１：空の憂鬱 【暁side】 ページ1
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夕暮れに空を見上げると、雲がやけに低い。
先程から肩の痛みと軽度の頭痛が来ていると感じていたが、そういう事かと納得する
雨は―――嫌いだ。
精神と身体は密接に関わっており、その均衡が崩れると他方に作用する―――と、どこかの脳科学者が言っていたか。脳の奥底に封じ込めたはずのあの“記憶”が、無意識に能力を蝕んでいく。どんな訓練を行っても、記憶を消し去ろうとしても、雨天の身体の不調だけは克服できなかった。
アレルギーと同じで、身体に耐性を付ければもしやと思い、一晩中雨の中に立ち、高熱で三途の川を渡りかけた事もあったか―――
あの時は、隣で家族に泣かれ、流石に止めようと思ったっけ……
「大丈夫か？顔色が優れないようだが―――」
その声に振り向くと、雑に纏められた濡れ羽色の髪が揺れる。
ここに居るはずのない彼女に、暁は一瞬目を見開き、にこりと笑って見せた。
『これは―――赤帝の姫君。こんなところ(国立四季研究専門学校)に何用でしょうか』
暁の”表の顔”に驚くことなく、赤帝…清水夏姫は空色の瞳を明らかに怪訝に細めた。
整ったその顔で、暁を鋭く睨む。
「アンタは私を、怒らせたいのか？」
ここは国立四季研究専門学校の図書室。
下校時間でこの雲行きという事もあり、周囲に学生はいなかった。
『半分当たり―――です。普段無表情の夏姫さんが“俺”の為に表情を変えてくれるなら、怒った顔ですら嬉しいから』
彼女が、“姫”と呼ばれることを嫌っている事は知っている。
意地が悪いとの自覚はあるが、恋人でもある夏姫は怒った顔ですら魅力的だ。
「人を、能面のように言うな」
『あれ、不機嫌の理由はそこ？』
眉を顰めたまま、窓から空を見上げる暁の隣に並ぶ夏姫に、暁はクスリと微笑を零す。
彼女とは、どこか噛み合わない事が多々ある。
人の考えを読み、数手先を考えて動く腹黒策略家と自負する暁ですら、夏姫の考えが読めない。
(―――それが、彼女の面白い所なんだけど)
『ところで―――』
国立四季戦闘専門学校(別の学校)の学生である君が、なぜここ(研究専門学校)に？
そう、言葉を加える前に、夏姫が口を開いた。
「とある要人の、護衛で来た。ついでに明日は雨だから、帰りはアキの護衛を受けようかと思ってな」
『ああ俺、序でなんだ？』
「―――……何を言わせたい」
『いや？別に』
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作者名：しゃっぽ・kohaku | 作者ホームページ：なし
作成日時：2021年12月5日 9時
