Log921 シロエside ページ44
現代地球の標準的な教育を受けた僕にとって、知性ある他人を【奴 隷】にすると云うのは、恐怖だった。
それはタブーでありすぎるために、正義や悪や道徳といった理屈を飛び越えて、直接的に恐怖と結びついているのだ。
もちろん自分が奴 隷になるのも恐怖だったが、自分が奴 隷を持つ、使役するという考えにすら生理的な恐怖感が存在した。
僕がススキノに感じている、薄ら寒さは、それと根を同じにする物だった。
しかし、それはそれで考えるのが嫌になる問題ではあるが、〈冒険者〉それ自体の人数はススキノ全部で数百人しかいない。
その規模の小ささは、まだ、救いがある。
むしろ、こっちだよな……。
ミナミは……。
僕の予想をはるかに超える事態に、はるかに超える速度で突き進んでいた。
Aがいっときミナミにいたが…それは大災害が起きる前の事。
大災害が起きて直ぐにこっちに来たから、ミナミの現状には詳しくない。
さて…どうしたものか…。
Aが当てにならなくてすまないと言った言葉に僕は首を横にふるしかなかった。
アカツキ「主君。服を持ってきたぞ」
器用にドアを背中で押し開けて入って来たのは、アカツキだった。
相変わらずこいつの主従感覚ってのは判らないな。
そう思いながらも、僕は部屋の片側にしつらえられたテーブルへと移動する。
僕の部屋は20畳くらいの広い空間だった。
もとより大きさだけはたっぷりしたビルだったのだ。
何度かの間仕切り移動の結果、今では２階の東側１／３近くが僕の占有スペースと云う事に落ち着いていた。
元の地球であれば、パソコン一台はおろか携帯デバイスに収まる程度の情報量であっても、この異世界では幾つもの書架とテーブルを埋め尽くす書類となってしまう。
検索にしろ整理にしろ効率は良くないのだが、そうでもしないと、目の前の事態を交通整理することさえ出来ない。
アカツキ「顔色が悪いぞ？」
アカツキが下からのぞき込んでくると、僕はやはりびっくりしてしまう。
この小柄な美少女は、自分が美少女だという自覚に欠けている。
視線を逸らさずに見つめてくるから、その磨いたように黒く大きな瞳もゼリーのように艶やかに光る唇も、いつでも正面から目撃してしまい、僕はきまりの悪いドキドキした気持ちになってしまうのだった。
それに、こいつ最近なぁ……。
★☆★
2020/01/05
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作者名：豆乳ココア | 作成日時：2019年12月9日 23時
