Log893 ルンデルハウスside ページ16
ルンデルハウス「すまん、その……。
心配をかけたような気がする。」
その台詞を僕が言った瞬間、涙が出るほど痛い一撃が、座ったままの彼の頭部に炸裂した。
何で殴られたのかは判らないが、僕も貴族の血を引き、この歳になるまで暮らしてきたのだ。
こういう状況の女性にはとことん下手に出て謝り倒すしかない事などは重々判っている。
ルンデルハウス「ごめん、悪かった。
ミス・五十鈴。
す、すまない。
もうあんな事はしないから。
とにかく理由を聞かせてくれないかっ。」
1つの言葉を喋る度に、2回から3回の打撃が加えられる。
僕の頭部は叩かれすぎて熱を発し、もはや意識がもうろうとするほどだった。
ルンデルハウス「わかった。
ミス・五十鈴の云う事はちゃんと聞くっ。」
五十鈴「本当？」
ルンデルハウス「本当だ。
神に誓う。」
五十鈴「ルディの子供時代の事も話すんだからね。」
ルンデルハウス「なんでそんな……。
っ！？
わ、判った。
話す。」
五十鈴「あんな無茶をしてたら命がいくつあっても足りないよ？」
ルンデルハウス「反省する。」
五十鈴「じゃぁ、お手をしなさい。」
え……？
僕はその言葉に、ミス・五十鈴を見上げる。
ふてくされたような怒ったような、そばかすの可愛らしいミス・五十鈴の表情の中で、瞳だけがはにかんでそっと手を指しだしていた。
そんなの、かなわないじゃないか。
僕は、その手に自分の手をそっと重ねる。
当然この世界にはない、異界の仕草だ。
僕にしてみれば、騎士が淑女をエスコートする仕草を男女逆転したようにしか思えないし、それはそれでひどく気恥ずかしいものであった。
後日、その仕草は、犬が主人に忠愛を示す作法なのだとミス・五十鈴に聞いて激怒したが、その時は首筋にかぶりつかれて怒りを発揮するような状況でもなかったりする。
どうやら僕は、このそばかすの少女に逆らえない運命を背負っているようだった。
☆★☆
2020/01/02
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作者名：豆乳ココア | 作成日時：2019年12月9日 23時
