Log891 ルンデルハウスside ページ14
僕はしばしその文字を呆然と見つめる。
そうか。
ボクは確かにサブ職業を持ってはいなかった。
あの契約によって、新しいサブ職業に就いた。
それが〈冒険者〉だとすれば……。
あわててサブ職業の能力を確認する僕。
そこには確かに見慣れない、だが噂で聞き知ってはいる〈冒険者〉の能力が並んでいる。
【神殿に帰還しての復活能力】
【念話能力】
【経験値取得補正】
【銀行貸金庫】
【詳細ステータス】
そのほか僕が内容も知らないような様々な特典が、ここでは能力として記載されている。
これは、盛りだくさんだなぁ。
……これだけの力があれば。
失われた時は戻らない。
僕の過去は変わらない。
けれど、これから先、無力に震える事はなく、願っただけの人々を助ける事も出来るかも知れない。
そしてなにより、正体を隠すことなくアキバの街で暮らす事が出来るのだ。
いまでは誰よりも親しく感じる、今回の合宿で深い友情を結んだ仲間達と。
僕はもう一度故郷を作り出す事が出来るかもしれない。
自分が自分で居る事の出来る居場所を、だ。
僕は思い出す。
堕落しきっていた貴族達を併呑していった一人の〈冒険者〉を。
ああなれれば良いとも思い、ああはなりたくはないと呪った相手だった。
もう一度が許されるのならば、自分は冒険者になる。
そして自分が願った奇跡の価値を計るのだと、僕は誓う。
この小さな玄室は、その再出発の地点なのだ。
生真面目な顔をした眼鏡の青年も僕の事を蘇生させようとしてくれた青い服を着た女性もまた〈冒険者〉だという。
僕の友人であるミノリとトウヤが尊敬する、彼らのギルドのマスターとそのギルドメンバーだ。
あのシロエという青年ならば、僕の知らない景色を知っているんだろうか……。
Aと言う女性ならどういう景色を見たのだろうか…。
僕は自分の思考と蘇生の歓びに浸っていると、遠くから高い足音が近づいてきた。
五十鈴「ルディっ。」
祭壇の間の石扉が砕けんばかりに弾き開けられて、ミス・五十鈴が入って来た。
ミス・五十鈴は、怒ったような、困ったような複雑な表情で、戸口から僕をにらみつけているのだ。
ルンデルハウス「やぁ、ミス・五十鈴。
……えーっと、どうしたのかな？」
五十鈴「ど、どうしたのか……じゃ……。」
ミス・五十鈴はつかつかと近づいてくると、思いっきり胸を反らした。
★☆★
2020/01/01
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作者名：豆乳ココア | 作成日時：2019年12月9日 23時
