歌に愛された彼がアイドルになるまでの話 (ページ10)

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名前をつけるとすればページ10

その頃には時間も結構経っていたので、スマホの連絡先だけ交換して別れた。
　それに歌ってもらうとなれば今すぐにでもフルコーラス作ってしまいたい、そう言うと彼はそれもそうだねと頷いて。

　それから、「楽しみにしてるから」と言って、そうして公園の向こう側に歩いていった。

　

　
「にしても、あんな良い反応貰えるとは......」
「ん、どうかした？」
「あっいやなんでもない」

　家に帰ると丁度母が夕食を作るタイミング。

　お皿洗ってと言われたのではいはいと荷物を置いてシンクの前に立って作業をしていたのだが、思わず呟いたのが微妙に聞こえていたみたい。

「ていうかさっきから機嫌良いけどどうしたのよ」
「いや、特には」

　やばい浮かれてるのバレてた。
　内心慌てながらそんな言葉で誤魔化して、お皿の泡を流した。
　そのまま全部お皿を洗い終わって、夜ご飯のハヤシライスを食べ、私は早々に部屋に引き籠もった。

　彼の歌声を聞いた瞬間、頭に浮かんだ言葉達を口ずさみながらノートに殴り書いていく。

　あれだけ苦戦していた曲作りが嘘のように、頭の中で言葉と音が鳴り止まない。それどころかもう一曲作れてしまうくらいだった...作ろうかな。

　そんなことを考えながら二番ができた。
　この間までの、私の尽きたインスピレーションを無理やり絞って書いた歌詞の数百倍良い。

　取り敢えずここまでデータに打ち込んでしまおうと、パソコンを起動させる。するとブブッとバイブ音がして、スマホの方に何か来たらしい。

　起動を待つ間に確認しようと、適当に机に置いていたそれを手に取れば藤牧くんからだった。