歌に愛された彼がアイドルになるまでの話 (ページ37)

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桃奈にせっつかれながら、保護者席よりも優雅に観戦する気満々でグラウンドに出る。
今朝置いた椅子は無事に残っていた。それに腰掛けながら、ずっとポケットに入れっぱなしだった進行表を眺めた。

桃奈と京介が出る種目の順番を確かめる。
京介が朝言っていた種目は棒引きが午後一番目、そのしばらくあとに借りもの競争、それから最後が騎馬戦...改めて見ても出すぎじゃない？

桃奈の方は午前に出た二競技と、確か障害物競走に出ると言っていただろうか。終わりから二番目だったのでしばらく彼女の出番は無い。
ちなみに彼女は運動会ガチ勢らしく、最前をキメて応援している。

さっき急いで買った紙のパックのいちごミルクにストローを差して口をつけた。二、三ヶ月に一度こういう甘ったるい飲み物を人間って絶対摂取したくなる気がする。え、ならない？

そんなくだらないことを考えながら競技が行われているグラウンドの中心に目をやった。午前に引き続きすごい声援である。
合間に聞こえる黄色い歓声は一体なんだろうか。少し遠いけど耳を澄ましてみる。

「_____くん、頑張って！！！」
だれか特定の男子を応援してる声が耳に入ってきた。そういえば、この学校でも人気のある男の子ってやっぱりいるのだろうか。
すると目の前を通りがかる女の子二人が、グラウンドの方を見つめながらテンション高くお喋りしている。

「は〜〜〜〜かっこいい」
「"藤牧先輩"、ほんと好き...」

......ん？
え、もしかして応援されてるのって京介！？

思わず紙パックを落としかけたのを慌てて強く握ったのでストローの先からいちごミルクが溢れて手にかかった。えっだる...。
気を取り直し、タオルで手を拭いてから椅子から立ち上がりそろりそろりと人がいる方に近づく。

ちょうど棒引きが終わって、種目に出ていた人達が応援席に戻ってきていた。京介も同じで、戻ってきた彼の周りには男女関係なく人がいた。
人見知りだと以前言っていたけど、それでも地元で十数年一緒にいれば知り合いだって多くなる。

_______あっそう？なんでもいいけどさ、京介モテるから......。
その後に続いた言葉が大分印象が強くてあまり意識していなかったけど。前桃奈が言ってたこと、本当だったんだ。

何故か無性に、胸の辺りが苦しかった。