歌に愛された彼がアイドルになるまでの話 (ページ35)

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その後も順調に種目は進み、午前の種目一番最後の三年のリレーまで、進んでしまった。
そう、今日のメインディッシュである。このためにこの一ヶ月練習を積んだのだ、無事に終わってくれなきゃ困る非常に。

トラックを四つに分けるようにそれぞれ並んで座った。京介からバトンを受け取るから彼は別の列。
ぐるりとグラウンドを囲むトラックをぐ、と僅かに眉根を寄せて睨めつける。コケたら呪うからなグラウンドを。

位置について、用意。

パァン、と発砲音が軽快に鳴り響くと同時に最初の走者が走り出した。それと共に降り注ぐ声援。熱気がぶわりと場を満たす。
私たちのクラスは今は二番。全然良い位置だ。

どんどん状況は移り変わって、抜きつ抜かれつを繰り返している。それは同時に私の走る番も近づいているということで、気付けばぎゅっと手を握りしめていた。

ついに私の前の子がバトンを受けて走り出した。やばい、もう私の番が回ってきてしまう。他のクラスもバトンを受け取って、次の順番の私を含む人がレーンに並ぶ。

緊張からだろう、手にじわりと汗が滲んでいる。大丈夫、大丈夫。同じクラスの子からバトンを受け取ってそれを京介に渡すだけだ。
ドクドクと、うるさいほどに心臓が音を立てている。

私がバトンを受け取る男の子がどんどん近づいてきている。その彼の後ろには少し離れて三人。
...三人！？

「走れ！」
彼の叫ぶ声に押されるようにして走り出す。後ろに伸ばした腕の先の手のひらに、グッとバトンが押し込まれた。

喉ぐ、とが引き攣る。バトンを握りしめる手が震えていた。

私の目の前を走る人は、誰もいない！

少し後ろで聞こえる、砂を蹴る音に私の心臓が飛び跳ねている。抜かされたくない。そこにはなんとしても、一位のままバトンを繋ぎたいという強迫観念じみたものがあったかもしれない。

でも生まれついた足の遅さというものは残酷なもので、後ろを振り向かずとも分かる、じわじわと詰められる距離に奥歯を噛み締めた。それでも京介までもうすぐだ。走れ、走れ！！

「Aっ！」
京介と、視線がかち合った。

「京介！！」

こちらに向けられた手のひらに、必死でバトンを押し込めた。