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「そうは言えどほら、課題さっさとやりなよ。EXILEのチケット当たったのに行けなくなってもいいの」
「良くないけどさぁ......」
なんとこの人、先日EXILEのチケットが当選しその公演が月末にある。
のだが、野球の最後の大会が終わってからちょっとした燃え尽き症候群になったと。
その体たらくぶりにお母さんにキレられて、課題終わんなきゃ行かせないから！と宣言されたらしい。自業自得である。
渋々といった様子で卓袱台の前に胡座をかきなおしシャーペンを握ったのを見て、私は再び自身の課題に視線を落とした。この読書感想文で終わりなので、さっさと終わらせてしまいたい。
カリカリとペンの先が削れる音、かさりと紙が擦れるその僅かな振動すらも空気を伝って私の耳に届いた。
簾で遮られた窓の方から、
太陽光がまるで木漏れ日のように
僅かに部屋の中に差し込んでいる。
窓越しに遠く響く蝉時雨、
おばあさんに入れてもらったコップに入った麦茶と氷が、カランと涼やかな音をたてた。
「京ちゃーん？入りますよ」
はっと意識を手繰り寄せた。
そちらに視線を向けると、おばあさん___トヨさんがその手にお盆を持って襖を開けていた。
「これ、冷やしておいた桃ですから。京ちゃん好きでしょう？Aさんも良ければ食べてくださいね」
「え、ありがとう」
卓袱台の横の畳に置かれたその中にある皮のついた桃が目に入って、思わず笑みが溢れる。
「ありがとうございます、本当にトヨさんたちの桃好きなんです」
すると彼女も目尻にシワを寄せて微笑んだ。
「そう言ってもらえるのが一番嬉しいですからね、また貰ってちょうだい」
いつもありがとうございますと軽く頭を下げて、部屋を出ていくトヨさんを見送る。私も少し休憩しようかなとお盆を見れば、片方のお皿の中身がもう減っていた。
うん、藤牧くんが早々に桃をフォークに突き刺し齧っていた。
「え、はっや...」
「好きなんだよ、痒くなるけど」
「アレルギーじゃんそれ」
いや、そうなんだよねと独りごちる彼。
「でもじいちゃんたちの桃好きだからさぁ」
その表情は、存外柔らかく見えて。
大事に思ってるんだねなんて言ったら、あなたはどんな顔をするんだろうか。
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全て虚妄です。言葉筋とかしゃんとしてるおばあさまって素敵ですよねという気持ち。
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作者名：てくの | 作成日時：2022年10月11日 18時
