歌に愛された彼がアイドルになるまでの話 (ページ17)

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ガタンと電車が揺れて止まる。パッと窓の外を見やれば、藤牧くんが言っていた駅についていた。

「降りるよ」
そう言いながら立ち上がった彼の後を追って、電車から降りた。

　駅から出ると、ロータリーの向こう側にカラオケチェーン店の看板がでかでかと見えた。

「あれ？」
　あの店かと聞けば否が返ってきて、ロータリーに沿って左の道を進む。

「裏に入ったとこに馴染みの店があるから、そっち行く。一、二年前くらいに兄貴が気に入ったの教えてもらってから、カラオケ行くときはずっとそこ」
　へぇ、と一息ついて。

「仲良いんだね」
　私には兄弟はいない、それを寂しいなんて思ったことはないけれど。

　そういうの羨ましい、なんて言えば別にと少々ぶっきらぼうな返答。でも彼の耳は少し赤くなっていた。
「普通でしょ...ほらこっち」

　少し入り組んだ道を歩いてからビルのものらしきエレベーターに乗り込んで、四階のボタンを藤牧くんが押してドアが閉まる。
　少し古いのかガタンと音がして動き出す。これ一人だったら大分怖いな、とか思っていると動きが止まりドアが開いた。

「ここ。多分顔パスでいけるけど、学生証もってるよね？」
「持ってるけど...結構通ってる？」

　顔パスという単語に思わず聞くと。
「まぁそれなりに。大体週一、長期休みは週三」
　そんな言葉が返ってきてえぇ、と驚きの声が漏れた。てかそんな通えるお金あんの？

「大分なヘビーユーザーなのね...」
「まぁ...宮下さんいますかーー？？」
　すると無人のカウンターの奥に結構な大声で呼びかける藤牧くん。呼び鈴あるのに使わないんだ、とか思いながら待っていると奥の方から足音が聞こえてきた。

「京ちゃんいらっ...えっっっ彼女！？！？！？」
「うわ宮下さんじゃないのかよ、違うから！」

そんな大声とともにメガネをかけた若い男性が顔を出した。藤牧くんはというと苦虫を噛み潰したような顔である。え、誰。

「そんなこと言ってぇ...ついに京ちゃんにも春がやって来」
「カラオケ二時間入るんで！」
バンッッと何やらポイントカードをカウンターに叩きつけると、お兄さんはチッつまんなとか言いながらそのカードを機械に突っ込んでいた。