歌に愛された彼がアイドルになるまでの話 (ページ14)

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教室に駆け込んで、隣の女の子にちょっと笑われながらもぎりぎり遅刻にはならなかった。

　藤牧くんにほんとありがとね、とこそりと伝えれば別にいいよ、と手をひらひらさせて一時間目半ばには早々に寝に入ってしまった。
　彼、何しに学校に来てるんだ...？

　
　今日はたまたま日直で、黒板を消したり日誌を書いたりしなければならなかったんだけど、書き終わった日誌を職員室に持っていったらまさか放課後もパシられるとは思ってなかった。

　あの担任、優男みたいな見た目しながら中身は大分雑だしドライだし。だからこそ生徒との距離感も間違えないから、人気あるんだろうけど。

　そんなことを考えながら渡り廊下を歩いていたら、何か下から声が聞こえた。
　渡り廊下からはグラウンドがよく見えるから、体育会系の部活かななんて思って一度足を止めた。

　野球部。走り込みとかやってる人から素振りしてる人からボールを投げてる人まで。
　監督らしき先生は檄を飛ばしているし、生徒の方も声を掛け合ってやっていた。

　青春だな、なんて思った矢先。
　あれ、なんか、見覚えある。

　クラスメイトの丸刈り君は割とすぐに分かった。彼がグローブを手にはめてキャッチボールの相手をしている人、大分遠いから見づらい、けど。
　

「藤牧くん......！？」

　彼が野球部のユニフォームを着ているのがなんだか新鮮だった。
　だって、完全に文化系っぽいなとか思ってたのに。いやそれにしては授業寝すぎでしょとは思ってたけど。

　それと同時に、だから休日じゃなくて水曜日の放課後なんだと納得する。
　うちの学校が結構部活に力を入れているらしいことは、朝会で部活の大会の結果が話されていたりなんとなく分かっていた。野球部もその一つで、中々休みがないってクラスメイトが話してくれた。

　ほんと意外だな。
　けれど、彼の新しい一面を見たように思って。

　ほんの少しだけ、浮足立って職員室に向かった。