５８話 ページ19
“憎しみと怒りに感情を委ねろ！”
緑谷side
ずっと無言の無希さん
誰にだって隠し事はあるし、僕だって言えないことはある
それに無希さんのことは信じている
言えない理由だって、無希さんが原因なんじゃなくて学校側の問題なんだと思う
僕は物間くんに一言、言おうと言葉を発した……いや、しようとした
「ねぇ、どういう事……『……っ』え？なんて？」
『“黙れ”』
「「！！……っ！」」
無希さんが一言そう言った瞬間、全身に棘のように刺さる悪寒、僕だけじゃない、物間くんもクラスメイトもそしてこの食堂に居るみんなも
無希さんの言葉を聞いたわけじゃない、ただ感じとったのだ
“殺される”と
明らかな殺気
それはヒーロー殺しのそれと同じ
いや、それ以上に
恐ろしい殺気なんだって
僕らは動けなかった。言葉を発することもできない、食堂は静まり返っていた。無希さんはただ静かに冷たく“黙れ”と言い放っただけ
それなのにこの殺気……
動いたら殺される……みんなそう思った
「何してんだ」
『！』
その中、一人だけ動いている、言葉を発した者……
「なんでこんなに静かなんだ」
『(轟くん……！)』
分かってても声が出せない、轟くんの名前を呼ぼうとしたが出なかった
「……」
轟くんは辺りをグルッと見て、そして無希さん、物間くんを見た。物間くんは完全に腰を抜かしている
「……」
無希さんは俯いて無言……そんな無希さんに
「無希」
轟くんは声をかけた
「……轟くん……？」
「……」
そして無言で轟くんが頭を撫でた。するとさっきまでの殺気や悪寒が無くなり、硬直状態が解けた
『っ……は……』
息をするのを忘れていた。そんな数分だった
そして僕は大きく息を吸う
「無希」
「轟くん」
「飯、途中だが一緒に食わねぇーか」
「……うん」
そう言うと無希さんは自分の食べていた蕎麦が入っているお盆を持って轟くんと別の席に移動した
「……ごめんね」
無希さんはそれだけ言い、離れていった
『……』
轟くんが撫でた、すると無希さんの殺気はなくなった。轟くんはその殺気に物怖じしなかった。それに何も言っていないのに無希さんを宥めた
『(それもそうだけど……)』
轟くんの声にだけ反応した無希さん、無希さんと轟くんには何か繋がりがあるのか
切っても離れない繋がりが
僕達は去っていく轟くんと無希さんの背中をぼーっと見つめた
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