38.愛弟子と心の声 ページ40
ドフトエフスキーの心に入った私は、身動きが取れないでいた。
彼の心にあるのは、憎しみ。悲しみ。怒り。
でもどれも彼だけの思いではない様な気がした。
ド(……全ては1冊の本の為に)
ド(それさえ手に入れれば、私の願いは叶う)
ド(何をしてでも手に入れる……)
……何て悲しく、そして悍ましいのだろうか。
異能力を使うのを止めなければ、私も彼の心の中に囚われてしまう。
そう思うが、【浮雲】を止めることが何故か出来ない。
そうして次第に心の声は違うものへと変わっていく。
(……ごめんな…お前に辛い思いを背負わせて…)
これは、誰の声……?聞いた事がある。
(でも希望はお前だけなんだ……)
耳に残る、その声は
(俺はお前の事を見守っているから……)
(だから、先に逝くのもその異能力をお前に背負わせるのも赦してくれ……)
(俺は、お前を愛しているよ……A……)
確かに私の名前を読んだんだ。
【人間失格】
太「大丈夫かい!?A!?」
そんな太宰の声と、私の肩においた手によって、私の異能力は止まった。
『だ、ざい……』
太「だから言ったでしょ。危険だって」
そう言う太宰の顔は険しい。
『御免なさい……』
けれど私は今、それどころじゃない。
だって、あの時聞こえてきた別の声はあれは……
『太宰…』
太「ん?」
『兄様の、声が聞こえました……』
太「!?」
そう、あの声は私の実の兄ーーー二葉亭四迷のものだったのだ。
混乱する私を見て、太宰は1度目を瞑り。
そして口を開く。
太「取り敢えず今は、この作戦に集中しよう」
それはとても正しい事で。
あの声の事も気にはなるけれど、今は太宰の言う通りにしなければ。
『わ、かった…』
私は震える声で太宰にそういった。
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作者名:松並ゆの | 作成日時:2018年2月26日 23時