生きた ページ38
.
私がマネ業出来てた?って聞いたら、及川は目を少し開いた。
いや、驚いたと言った方がわかりやすいだろうか。
もうそろそろ私が死んじゃうのはわかる。
あときっと10分もないってことも。
何故かは知らない。勘だから。
ねえ深雪。
私ね、案外幸せだったかも。
死ぬ時だって、大好きな人達に囲まれてるんだから。
深雪は、死ぬ時みんなと一緒じゃないでしょう?
そう思えばね、ちょっと優越感があるの。
嬉しいよ、私。
みんなを呼んでくれたのは深雪でしょう?
最後まで優しくて、それでいて酷い人ね、あなたは。
さっきから口角が少し上がっているのは見えてるんだから。
やっぱり、嬉しいのね、深雪も。
私がいなくなって、紗倉深雪は1人で自由だもの。
紗倉雪乃っていう存在に縛られずに生きていけるんだから、それは幸せでたまらないでしょうね。
ああ、なんだか力が抜けてきたなあ…
もうみんなの顔が見れなくなるのは、寂しいし、嫌だけど…
「あ、当たり前じゃん!!深雪は、いつも俺達のために頑張ってたよ!!」
その言葉が聞けて、もう安心した。
よかった、本当に。
深雪は、みんなの役に立ててたんだね…
病気になる前は死にたいなって思ってたなあ…
それは、こんな暮らしが嫌で、バレー部と居ても居心地がよくなくてだった。
でも、今は違う。
1分1秒でも長くバレー部といたい。
思い出を、つなぎ止めておきたい。
もし、私の病気がこれから完治して、退院した時に、
私が闘病してた時にみんなは励ましてくれたねって思い出話をしたい。
でも、もうそれも叶わないみたいだ。
『ねえ、みんな…』
最期に、これだけは言わせてほしいの。
私は、みんなと会えて幸せだった。
思い出を残せてよかった。
みんなの優しくて、仲間を大切にできる所、大好きだったよ。
本当にみんなに出会えてよかった。
本当に、今まで、この死ぬ瞬間まで、
『ありがとう』
ああ、なんだか眠くなってきたな。
バレー部のみんなが目に涙を溜めて何かを言っている。
その言葉さえ、聞こえやしないけれど。
ちらりと横を目で見てみた。
深雪は、口角を上げながら泣いていた。
あ、瞼が落ちてきた。
佐野花美がゆっくりとこっちに来てる。
私、死ぬんだな。
いやだ。まだ、死にたくない。
私は、まだ生きた…
…………
………
……
…
.
1030人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:浅葱。 | 作成日時:2017年7月21日 18時