その恋は甘いハート (ページ21)

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「それではAさん……お元気で」

『……はい。お世話になりました』

学園長に頭を下げて私は本校舎に歩みを進める。
本校舎の鏡の間。
そこに元の世界に戻る鏡を置いてある、学園長は先程そう告げた。
元々この世界に来た時に自分の荷物なんて持っていなかった私は、一枚の写真だけを学園長に気付かれないようにポケットに忍ばせた。
この写真だけは持って帰りたい。
あなたと一緒にいたという証を持っていたい。
もう二度と会えなくなるから。

『……グリムにもお別れ言えなかった』

帰る方法が見つかった、と学園長が私に告げたのを聞いていたグリムはどこかへ行ってしまった。

『もう着いちゃった……』

重たい足取りでも動かしていればいつかは着いてしまう。

鏡の間の重たい扉。
この扉を開いた先に元の世界に戻る鏡がある。

なんのために戻るんだろう。

元の世界に戻っても私を待っている人なんていないのに、戻らないといけないなんて。

叶うことならこの世界にいたい。

好きだと言ってくれる人のそばにいたい。

でも、それは叶わない。

『…………さよなら……エース』

届くことのない愛しい人に別れを告げ、私は扉を開いた。

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