夜空に迷って・2 ページ40
*
「Aさんってさ」
名前を、呼ばれた。
「いつも前見てるのに、勿体無いよ」
「…………へ?」
前見てる? ……もったい、ない?
何のことかさっぱりわからずに、ひたすらハテナマークばかりが頭の中を駆け巡る。
赤葦くんは器用にボールを回転させながら、ただ淡々と述べていった。
「Aさんって、考え方は基本後ろ向きなんだけど」
「……仰る通りです」
「でも、視線はいつも前見てるよね?」
前を、見てる?
……私が?
「あああ赤葦くん、それは私に似ても似つかないドッペルゲンガーか何かの仕業」
「違うと思うよ」
「え、だ、だったら、前なんて」
現に今だって体育館の床を――そう言おうとして、「……あれ?」ふと違和感に至る。
俯いて、見た体育館の床は光っていて、……それがどうにも見慣れなかった。
気がつけば、「……私、」口は勝手に動いていた。
「……私、人の目を見るのが嫌で……諦めたような目を、みんなしてるから、」
「……うん」
「でも、たぶん……バレー部の人達は、しっかり見ていたんじゃないかと、思って……」
「それってさ」
赤葦くんは短く言葉を切って、それから、穏やかな表情で言った。
「それってきっと、Aさんが相手の目を見ていたからだと思うよ」
「……え、」
「じゃなきゃ、誰がどんな視線しているか、わかんないから」
そう言う赤葦くんは、きっとコートの上でも誰かの視線を追っているのだろうか。
私、と言いかけた時、ふと優しい声が聞こえた。
「あ、いたいた、Aちゃん〜」
白福先輩だった。赤葦くんの背後からにゅっと現れて、のんびりした声で私の名を呼ぶ。
「赤葦に隠れて見えなかった〜。足、大丈夫?」
「あ、はい、だいじょうぶ、です……」
「ならよかった〜」
にっこりと笑った先輩の笑顔は何よりも素敵で。つい見惚れそうになると、すっと手が差し出された。
「立てる?」
「え……、あ」
「ベンチ行こうよ。もっとよく見えるよ」
こんな隅っこ、退屈でしょ?
そう言った白福先輩の目は、優しくて。私は、無意識に手を伸ばしていた。
『ほら、大丈夫でしょ』
声は聞こえなかったけれど――私には、赤葦くんがそう言っている気がした。
ひとりで迷って、見つめているうちに。
いつのまにか、目的地は――案外、近くにきていたのかもしれない。
・
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しばらくぶりに赤葦さん。なんか同級生もいいなって思ったんです……いいでしょ。
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - ★マチャキ★さん» 好きだったらだいたい書いてますよー。 (2016年7月20日 19時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
★マチャキ★ - 照ちゃんあった!! (2016年7月19日 20時) (レス) id: a549331ee4 (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 彗華@京都へ行きたい (元:凰華)さん» そしてお察しの通り、及川さん大好きです。色々書きたくなるので、最初と最後に入れてるだけなんですけどね。前作も前々作も読んでくださってありがとうございます!更新頑張ります!! (2016年4月18日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 彗華@京都へ行きたい (元:凰華)さん» コメントありがとうございます!とんでもない、長文コメント最高に嬉しいです…!!私も実は「この続き書きたいなぁ」なんて毎回思ってまして、うーん……したい、ですねぇ……(笑) (2016年4月18日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
彗華@京都へ行きたい (元:凰華)(プロフ) - 前作、前々作を見て思ったのですが【及川さんで始まり及川さんで終わる】というループみたいなものが出来ているように感じました。作者様は及川さんが好きなのでしょうか?更新頑張ってください。応援しています!(長くなってしまいすみません) (2016年4月17日 22時) (レス) id: 4e64820097 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年4月14日 18時