馬は馬でも勝ち馬だ【二】

隔意 ページ8

二月とはいえまだ冷たい空気を切り裂くように走った。

胸の内に宿ったモヤモヤを振るうように、逃げるように、全てをかなぐり捨てて走った。

でも俺はそんなに体力に自信がある方じゃないし――そーいえば持久走がニガテだって話もしたんたっけ――足だって速くなんかない。

だから傍から見ればトンでもなく不格好な走り方だっただろう。

それでも、この想いに気がつかない方がよっぽどマシだった。

苦しくなって咳き込んで、歩道脇に膝を折った。

クソっ、とまれよ……！！

心臓を強く叩く。

通行人が俺を見ている。

なんで……なんで鳴りやんでくれないんだよ！！

なおも暴れるこの鼓動に溢れんばかりの悪態を口にする。


「俺はっ……俺は……！！」


『レモネード、おいしいですよ』


「うわあぁぁ！！」


弾かれたようにまた走り出す。

怖かった。

足を止めたらまたカノジョが出てきそうで。

あの暗がりで感じた体温も、髪の匂いも、静かな吐息も。

俺は、俺は……。



今井さんにはバレるわけにはいかない。

あくまでも俺は今井さんとカノジョの恋仲を応援する第三者なんだから。

このキモチは、隠さなきゃ。

どーゆーワケかAちゃんは今井さんの告白を曲解して、自分を今井さんの恋の相談相手(てゆーか、今井さんは一度理子さんにフラれてる)としてるワケだケド……ってアレ？

もしかして、コレって……チャンスか？

……いやいや、今井さんの方はホントに付き合ってるって思ってンだし、なあにバカなこと考えてンだろ、俺。

そもそも俺から告白されたとしてAちゃんがオーケーするワケがない。

ありゃー今井さんにゾッコン、て感じだったし。

今井さんに抱きしめられた時のカノジョを思い返して軽くへこんだ。


「ナーンか、今の俺……Aちゃんと似たジョーキョーだなー」


湯船に泡(あぶく)を立てて盛大にため息をついた。

好きなヒトのために恋のキューピッド役やるって、案外キツいもんだなあ。

それでも一緒にいるってことは、そんな思いしてもそばに居たいってことなんだろう。

ジッサイAちゃんと仲良い友達の関係でいられるんなら、キューピッドでもなんでもやってやるって思うし。

そんでコッチに転べば万々歳だ！！

……って、キモチなんだろーなァ。

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