「仕方ねえな」 ページ5
私は目を見開いた。
だってラファエロの口からそんな言葉が出てくるなんて思う？
行くな、って。
その言葉は正直、どんなサプライズなプレゼントよりも嬉しくて……こんな気持ち初めてだった。
私だってラファエロと離れるのはすごく辛くって。
でも行きたくないって、離れたくなんかないって言えなくって。
「ありがとう」
ラファエロも同じ気持ちでいてくれたんだね。
だからそんなふうに寂しそうにしないで。
「ねえ、ラファエロ？」
彼は少し拗ねたように目を逸らした。
「私、ここにいても、いいかな？」
躊躇いつつラファエロの胸に寄り添う。
彼は何も言わずに抱きしめてくれた。
カツン
ヘルメット同士で伝わる微(かす)かな振動。
見上げるとラファエロも同じように見つめてくれていた。
見つめ合うなんて普段なら照れくさくてできっこないけど、ヘルメットパワーはやっぱり偉大だ。
人間(あるいは亀)の頭部を強い衝撃から守るのも然(しか)り、私の声まで素直にさせてくれるんだから。
じっと瞳を見つめる。
「……あー、やっぱやめだ」
突然そう口にしたラファエロは慣れた手つきでヘルメットを外した。
そのままシートに叩きつけるように置けば、ドム、と小気味良い音が耳に響いた。
いつもより少し赤く染まった彼の頬。
「えっと、どうしたの？」
「ほら、お前も脱げ」
「ええっ、脱げって――きゃっ」
ブカブカだったヘルメットは彼の手によって奪い取られてしまった。
「……やっぱり恥ずかしいよ、ラファエロ」
今まで隠されていた部分が急に露(あらわ)になったことでたまらず両手で顔を覆った。
「もう隠すんじゃねえよ」
その手は私の両手を優しく掴んだ。
「俺も……もう隠さねえ」
そしてそのまま腕を引かれて再び抱きしめられる。
「Aの場所はここだ。ずっと……その、取っておいてやるよ」
ラファエロはきっと不器用か不器用でないかで言えば、恐らく前者の方だろう。
でも、そんなのは些細なこと。
いくら言葉が詰まっても、顔を隠していても、彼は心でぶつかってくる。
だから私も心で返してあげるの。
ある種、情熱のような熱い気持ち。
辛い坂道で気まぐれに背中を押してくれる追い風のような、私に力をくれる存在。
またここに来た時は、あなたのところへ案内してくれる風になるといいな。
グリーンな恋心 続編 ★私の家族 へ
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作者名：猫田七樹 | 作成日時：2019年12月9日 13時
