★「仕方ねえな」 ページ3
多少乱暴な物言いのはずなのに全く嫌な気持ちにならないのは、彼の優しげな微笑みのせいだろう。
ううん、それよりも……言葉じりに感じるの。
ラファエロがその短い言葉にどれだけたくさんの優しさを込めたのか。
「うん、その……よろしくね、ラファエロ」
不意打ちとも言えるその優しさに当てられて、とてもじゃないが彼の顔など見られない。
目を伏せてもじもじと手を組み合えば手首をサッと掴まれる。
「時間がねえんだ。バイクで行くぞ」
「え！？ バイク？」
ラファエロはそのまま玄関とは逆の方向へずんずんと進んでいく。
その先にはヘンテコな模様の大扉が構えていた。
思えばここに滞在していた間、この扉には全く関心が無かった。
この先にバイクが用意されているのだろうか？
彼が扉に手のひらを押し当てるとその両扉はなんの抵抗もなく私達を迎えた。
ほんのりお線香のような匂いがする。
「さよなら言うなら今だぜ」
「えっ、嘘！」
振り返ると皆が口々に「さよなら」と発し手を振ってくれている。
残された時間は本当に少ないんだ。
「皆、本当にありがとう！ わたし――」
その時目の端で扉が閉まり始めているのを捉えた。
どうしよう、何か他に彼らに伝えたいことは……！
「あ――」
「ありがとう」だけじゃ伝えきれない、感謝の気持ちを。
「愛してるよ！」
天井のクリスタルが煌めく。
扉は完全に閉じた。
「皆ぁ……愛してる」
涙こそ出ていないものの、くぐもった声でそう呟いた。
そうだよ、愛してる。
家族だと言ってくれた彼らは同じ様に私を愛してくれた。
本当に嬉しかったんだよ？
胸に手を当てた。
まるで温かくて柔らかいお布団に包(くる)まれているような感覚。
それはね、元々温かいんだけどね、私自身の体温でもっと温かくなるの。
それに、いつまでも温かいんだ。
この心地良さを皆で共有できるなんて、こんなに幸せなことってある？
「んな泣くな」
ラファエロにそう言われて気づいた。
いつの間にか私は彼の腕に抱かれて嗚咽を漏らしていた。
「A」
名前を呼ばれて彼を見上げる。
するとラファエロはバツが悪そうに視線を外した。
「もう泣くな。……見てらんねえ」
肩に回っている腕に少しだけ力が入った。
「こんなこと言っちゃなんだが、その……なんだ。俺が……」
言葉を濁しつつも確実に、ひとつずつ、発していく。
「……俺が、いるからよ」
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作者名：猫田七樹 | 作成日時：2019年12月9日 13時
