クピードの弓矢 (ページ26)

今日:7 hit、昨日:4 hit、合計:26,800 hit

26 ページ26

「どういうこと？」

Aの声が震える。

「ごめん。今日母親は来ない。」
「帰って。」
「友達の相談をしたいんだ。」

Aの言葉を無視してカウンターに座った。
"友達の話"を聞いてもらうまで居座り続けるつもり。

ついでに、カウンターの正面ではなく、隣に座れと主張する。

その意図をくみ取ったAがため息をつきながら俺の隣に座った。

「これは俺の友達Aさんの話なんだけど。」
「それはこの前も聞いた。」
「多分、思っているのと違うから聞いて。」

Aさんは、数年前に研修を行っていた。
先輩について、カフェで人と待ち合わせをしていた。

ただ、先輩は前の仕事が押していた。
先方とAさんだけが向き合って座っている。

人見知りなAさんは暗い顔をした女性を前に何を話していいかわからない。

「申し訳ありません。連絡とってまいります。」

一言断って、先輩に電話を掛けた。
もうすぐそこまで来ているということで、慌てて席に戻ろうとした時

「もしあなたが本物のキューピットなら……
その鉛の矢を私に打って。」

絵画の前で何かを呟く女性。

凛としたたたずまい。
何か目を奪われるような感覚がした。

こちらの視線に気づいたのかふと振り返った彼女は
酷く儚くきれいな人だった。

「それからAさんはその人を忘れられなかった。
何年も何年もその人を探し続けた。」

混乱した様子のA。

「ごめん。騙してたのは俺の方。
俺の母親からの依頼じゃない。
俺の母親のフリをした同業者からの依頼だよ。」

Aの瞳が動揺で揺れた。