何十年、何百年【朦刻 泡・神無月 紅霊】 ページ32
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「_____……ただいま。」
なんて。
ここは、貴方の「ただいま」なんて言う場所じゃ、…"帰る"場所じゃ、無いでしょうに。
「…んもう、迎えに来たのか、帰ってきたのか…はっきりしてくださいよ。」
…それに、変わらない美味しさ、より
…さらに美味しくなったって言って頂きたかった、ような?
少し、赤くなった頬で、彼に向かって笑いかけた。
久々に、こんな涙を流した気がする。久々に、こんな笑い方をした気がする。
目の前には、待ち焦がれていた彼が居た。…何十年も、何百年も。
一日も、一時間も、一分も、一秒も、一瞬たりとて、
待ち焦がれ、恋い焦がれていない瞬間の無かった彼が。
あれから、また大人びて、着流しを着た彼。
私に向かって、あの頃と欠片も変わらない笑顔を向けてくれるのは___
_____神無月 紅霊、その人だった。
もう、来ないと思っていた。彼には、彼女が居るから。
…約束なんてのは、所詮希望論だから。それなのに。
昔のように、反射で抱き付いてしまいそうになる。でも…躊躇われた。
…紅霊の左手薬指に光る、綺麗な指輪。
それを視界に入れた瞬間、私の心は竦み、震え、凍り付く。
…頭が、真っ白になる。そうだ、私なんかが彼の横に居ては…いけない。
赦されない。
不思議そうな彼を前に、今度は、俯くことしか出来なかった。
…自己嫌悪。度々私を襲うそれは、
この素晴らしい今日でさえ、私を許してくれることは無いみたいで。
*
「......なに俯いてんだよ」
そう言って、彼女の額をつつく。
でも彼女は哀しそうに俺を見るばかりで。
......コイツはまだ、馬鹿みたいなことに悩んでいるのかと。
つい、笑ってしまった。
「ンな辛気くさい顔すんなよ。こちとら薬指に指輪2つ着ける覚悟で来てんだぞコラ」
お前が俺に合わねーだとか、赦されねーだとか。ンな事どうだって良い。
――――――.......俺がお前達を選んだんだから。
だから、笑えよな。
そう言って泡に指輪を差し出す。
結婚を前提に付き合ってくださいも、何も言えなかったけど。
何百年も待ってもらったのに、更に付き合うのはもどかしい。
「俺と、結婚しろ。...良いな?」
もう、強制だバーカ。
*
「指輪が二つ…、…ふふ、莫迦だけれど…、ちょっと、嫉妬しちゃいそうです」
笑う私たちを囲んだ花が、小さく、芽吹く音がした。
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総悟13(プロフ) - 終わりました (2017年3月12日 18時) (レス) id: 56f522caa1 (このIDを非表示/違反報告)
総悟13(プロフ) - 更新します (2017年3月12日 18時) (レス) id: 56f522caa1 (このIDを非表示/違反報告)
総悟13(プロフ) - 更新します (2017年3月11日 17時) (レス) id: 56f522caa1 (このIDを非表示/違反報告)
りぃか(プロフ) - 終わりました (2017年2月23日 17時) (レス) id: d025085921 (このIDを非表示/違反報告)
りぃか(プロフ) - 更新します。 (2017年2月23日 17時) (レス) id: d025085921 (このIDを非表示/違反報告)
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