常勝神話３【ONE PIECE】 (ページ24)

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第三話…最高難易度の能力種ページ24

ラグの目の前で獣が喋る。
ラグは咄嗟に退こうとしたが、しかし彼を包み込むような六翼に、足を絡め取る長い尾が邪魔をする。

「ナットさんが口を滑らせましてね。」

ナットは少しばかり試みただけだ。
リラーグの行方を探るため、出航間際のナノハナで海軍とそれとなく接触してみただけ。しかし担当者として出てきたのは情報局員である。彼女達にとってナットの諜報活動もどきは毛の生えていないど素人に等しく、一周回ってあまりにも可愛らしいと見守ってしまうレベルのものだった。だから見守りつつ欲しい情報を抜き取り、誤情報を懐いっぱいに握らせて、謝礼ついで命は取らずに見逃してあげた。

〈見逃してあげた〉のである。
これは傲慢でも何でもない事実だ。
それだけの実力差が両者間にはあった。

ビッと血が飛ぶ。

「…アルバーナでグラッセンの追跡を躱した件や、ドラムでの見事な撤収など、どうにもラグさんがご助力なされる撤収作戦は手際が一際素晴らしいと言いますか…我々の情報網にほつれが生じると言いますか。もしかして対人能力ではなく、対環境能力だったりしますか。」

ラグの襟元に鮮血が広がり、カシャンッとランタンが落ちる。そして三対の翼が収納され直す軽い羽音が、静寂の資材置き場にひっそりと響いた。

竜の足元で掠れた呼吸音が零れている。
裂かれた喉は泡を吹き、言葉を吐こうにも不明瞭な呻き声しか出てこない。しかし目だけは敵意に溢れ、まだやれると言わんばかりの光を灯している。

「その系統の能力者は貴方だけではないのです。私達もアダンダラに学んでいますからね。」

次第に風は落ち着き、六翼は風に解けるように消えていく。長髪を耳にかけたハインは血溜まりを跨ぎ、黙ってスチル街の闇夜に耳を傾けた。蛾の目の腰布が音もなく揺れ、雨雲の隙間から顔を出した月に照らされる。薄い影がラグの遺体に重なり、灰色の髪は銀糸に近い煌めきを発した。

カチリカチリとハインの脳裏の更に奥底で、その齢にしては些か奇妙な、完成されつつある思考回路が稼働し始める。