ネタ、下書き置き場 (ページ41)

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アビンページ41

ベンレージ公と呼ばれた老人は柔らかい笑みを浮かべながらも、ふるふると首を振るった。重みのある黒檀の杖がレッドカーペットの敷かれた床を叩き、公は廊下に置かれたラウンジチェアに深く腰掛ける。

「不敗ではないのだよ。常勝なのだ。ISBの前身、かつての大戦で勝利を収めた海軍の将校だ。違うかね？」

事の始まりは、かの大戦が終わろうかと言う時代にまで遡るだろうか。

約八十年前に幕を下ろした大戦で、運良く蚊帳の外だったオハラは被害を受けずに生き延びた。アッティスが調べた資料によれば、当時のオハラは地図から消えた島として息を潜め続ける立場であり、人の出入りが全くない状態だったようだ。その環境の中でベンレージ公は育ち、終戦直後各地の海を見るべく海へ出た。渡り歩いて目にした悲惨な現場、深すぎる傷跡、戦場の噂話を知り、まだ若かったベンレージ公は大戦について調べるべきだと声を上げ、大戦末期から調停者として活動していた〈正徒教会付属調停機構〉と手を組んだ。そうして正徒教会付属調停機構は世界調停機構へと名前を変えて、調査を開始しようと人を集めた…が、ベンレージ公いわく『戦場の噂が牙を剥いた』ため、一時は諦めざるを得なかったのだとか。

それでもベンレージ公は粘り、少しずつ片鱗を集め続け、十数年後にようやく本格的な研究が始まった。世界各地から手記や記述が集められたが、そのどれもが信憑性には欠けていたようだ。研究者達は四苦八苦。寄り集まって頭を抱え、まったく読めない戦況や状況に呻いた。

そして月日が流れて御歳九十。
終戦六十年を迎える世界の中で、何があったのか老人は戦火に魅入られていた。この頃にはアッティスを始めとした若者や学者が集まり、その道の専門家も協力を申し出てくれるまでの大きな組織になっていた。

彼らが謳うのは〈大戦の原因究明と、全ての争いの未然阻止と調停〉である。

白髪の目立つ老人はアッティスを見たまま、それで？と笑う。世界調停機構の創設者として情報共有会に出席したのだろう老人は、権力者としての顔を覗かせてアッティスに圧をかけ続けていた。ただ彼は、ベンレージ公は世界調停機構の創設者と言うだけであり、特別に何かの決定権を持つわけではない。わけではないが…そんなのは建前でしかない。

これが厄介なんだ…とアッティスは苦く思いながらめ、何とかして老人を説得しようと試みる。