常勝神話(ワンピ)、神話の終わり2 ページ4
楽しみなのだろうにっこり笑うハインは、綺麗に結われた長髪の毛先を揺らしながらスモーカーの隣を歩く。ふわふわとした三つ編みは腰にまで届き、彼女が歩く度に毛先が跳ねる。ぴょこぴょこと跳ねる毛先を気にすることなく、ハインは月の明るい空を見上げ、ただゆっくりと歩いていた。
「…。」
「大丈夫か？」
「今日は少し疲れました。」
「暑かったからなぁ。これから増々暑くなる。程々に休めよ。」
笑みを返したハインはたしぎの所ではなく、森の小道へと進み始めた。スモーカーただ葉巻をふかしながら歩みを揃える。
いつものことなのだ。
小道の先に岬があり、そこに並ぶ石をただ眺める。何も埋まっていない土の上に並ぶ戦死者の石を、ハインただただ見つめるのだ。スモーカーはこの行動を止めやしないし、意味を尋ねることもしなかった。何も言わず急かすこともなく、少し離れたところから見守り続けるに留めている。
しかし今日は少し違った。
彼女は石を跨ぎ、岬の先端まで歩いて行く。
下には黒々とした夜の海面が、月の光を反射して揺れている。吹き上げる暖かな風には懐かしい潮の香りが混ざり、しっとりと肌を撫でた。その中でハインは振り返り、スモーカーに笑いかける。溢れるほどの星に煌めく水面が重なり、空と海との境目が熔けていく。その景色を背に彼女は楽しそうに笑っていた。
「平和になりました。」
「だな。」
「良いことです。」
「あぁ。」
静かな波の音が繰り返し聞こえる。
空からは風の音がしていた。
ハインは腕を後ろに、現役だった頃と変わらない立ち姿で小首を傾げる。もはや消えることのない無意識に刻まれた戦争の痕だが、微笑の瞳は柔らかくやけに満足そうだった。彼女も皆と同じように、少しずつだが立ち直ろうとしているようだ。
夜、寝れるようになった。何度か起きてしまうが、二度寝三度寝ができるようになった。無意識に急ぐ癖も落ち着いているし、逸脱思考も修正しようと努力している。できるだけ深く考えないように、ただ単純に笑っていようとしていた。
それでも、どうにもならないこともある。
「ここに来る度に、多くを犠牲にしたと感じます。」
「人は失ったものを数える。だが守ったものは大きい。得たものもな。」
確かに、と笑うハインは一歩後ろに下がる。
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作者名：poidf（ポイドフ） | 作者ホームページ：なし
作成日時：2022年1月3日 1時
