第六話 万人彩色 ページ35
ぶわりと逆立てられた毛により、化け猫の体は倍ほど大きく見え、鼻に寄ったシワと剥き出された牙は完全に猛獣のそれである。
「ッ！？アダンダラ！どこから！？」
爪を振り下ろし、ハインとサボの間に割り込んだアダンダラはグッと後ろ足に力を込め、銃弾の如く追撃を繰り出す。その長く太く、芯の硬い二本の尻尾を振ればブンッと重い音が鳴り、鉄パイプをいとも簡単に弾き飛ばした。急な衝撃に耐えられなかったサボは銃を手にしたが、市長に何を言われたのやらジリジリと後退するだけだ。
対するアダンダラは銃口を向けられながらも威嚇の姿勢を変えず、鮮やかな赤い双眼はサボを凝視して前進も撤退も許さない圧をかけている。
「市長の要請なしに云々ってのは、君らも対象のはずだぞ。君らにこそだろ。」
「まだ何も起こっていません。お互いに牽制しているだけではないですか。」
「曲解だろ…分かった。悪かったよ。この島で争うつもりはないんだ。何もしないからアダンダラを下げてくれ。」
降参するように銃を下ろしたサボは、アダンダラを警戒しながら深々とため息をついた。
ハインはアダンダラのフワフワとしたたてがみを撫で、急な雨に見舞われたウォーターセブンを眺める。化け猫の白い毛は柔らかく、その下には虎のように硬い皮膚が感じられた。アームカバー越しに伝わってくる体温は、人のそれより幾分高い気がする。だが猫としての体温を思えば平熱だ。
「オハラには焼き討つだけの価値があった、とも言うのかもしれません。」
「燃え尽きた知識は二度と修復できない。オハラにある書物が悪魔の書だったとしても、燃やすのは愚かな行為だと思うよ。」
愚かな行為に襲われたのはオハラだけではない。アレクサンドリア大書庫、ゴア修道院旧図書館、フロー群島の使徒学院館などもここ十数年の間に燃やされた。遺された灰の中に…本だった物の中にはどんな言葉が記されていたのか、今となっては知ろうにも知れず。
しかもそれらは命と同じく、一度失われれば二度と戻ってこない。
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poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (
レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
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