第三話 ネモエリア ページ18
真っ直ぐ落ちたカマイタチは海王類の顔面に直撃し、偶然にも乾燥していたヒゲの一本を切り落とした。
「あっ。」
やった、と手応えを感じたハインだったが、その一撃が火に油。海王類は怒りの声を上げて突進すると、ダンッと分厚く丸っぽい尾びれで大地を蹴る。
それこそ見事な鯉の滝登り。
相当に重いはずの巨体が宙を舞い、海王類は空を飛ぶハインを喰らおうと大口を開けた。開かれた口の奥には、黒っぽいギザギザの牙がずらりと生え揃っている。喉の奥からせり上がってくる海水は、プール程度余裕で満たせそうだ。
同じ高度まで跳ねてくる海王類に、まさかと不意をつかれたハインは咄嗟に翼を折りたたむ。そのまま急降下で水鉄砲を避けると、巨体のすぐそばを掠めるように通り抜けた。硬い風切羽が風に煽られてバチバチと空を打ち、灰色の髪が尾のように揺れる。それでも体勢を崩すことなく空を舞うハインを横目に、海王類は落下しながらも二発、三発と海水を吐く。チッ!とつい舌打ちを零した彼女は、くるりと空中で身を翻して緊急回避で乗り切り、お返しとばかりに一際大きなカマイタチを見舞った。
大草原の向こうからザワザワと、若草を押さえ付けて鋭いカマイタチが迫り来る。大地に落ちた海王類の首を刎ねようと、ただひたすら一直線、タープテントも船も無視してハインの眼下を駆け抜けた。
半ば焦った反撃は冷静さに欠く分威力が高く、だからこそ日頃は平静を心得ているハインに実力不足を自覚させる。
だが悪くはない。
むしろ良い攻撃とすら言えた。
放たれたカマイタチは、走り回り風に吹かれて脆くなっていた海王類の胸びれを断ち切り、勢い余ってマストを真っ二つに斬り裂いた。残った片方のヒレでは体重を支えきれない海王類は、どしんと地面に落ちるなりのた打ち回る。深く切られた首からは真っ赤な血が溢れ、徐々に動きが鈍くなり。しばらくの間グルルと恨めしそうな唸り声を発していたが…次第にゆっくりと…ついには消えて。
月明かりに照らされながら、それは静かに息絶えた。
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poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
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