【文スト】警察官に補導されました【中原中也】

深夜1時 ページ20

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松風が形振り構わず走っていった。何がどうなっているのか、上手く理解出来ない。ただ松風の様子が変わったのは自分が発言してから。それは、自分でもよく分かっていた。


大学時代の同級生だった。たまたまコッチに帰ってきてると云ったから、つい話し込んでしまった。そこに現れたのが、見慣れた姿。つい先日も時間を共にした、松風A。今日はその友人らしき人物も共に居た。カフェで親友が居ると話していたから、多分その親友だろう。

松風は控えめに俺の名前を呼んだ。たわいもない会話をしていれば、茶々を入れるように、楽しそうに笑った彼女が割り込んできた。松風のことを俺の彼女であると勘違いした。だから、それらしい言葉で否定した。







｢ っ、……中原さん ｣

｢ ……松風、追いかけなくていいのか ｣








今は貴方と話す方が先です。

松風の親友、確か名前は夏希と云っていたか。彼女は真っ直ぐに俺を見つめてそう云った。曇りのない、若者らしい眼差しで。その目で見られるのが、何時まで経っても苦手だった。自分はとっくに、そんな時代を通り過ぎてしまったから。

夏希は云った。


貴方のことを、Aから聞いています。貴方の話をする時のA、本当に楽しそうなんです。見ている私も嬉しくなるくらい。だから、Aが傷つく所なんて、絶対に見たくない。貴方も、そうなんじゃないですか。









｢ とっくに、Aの気持ちに気付いてるんですよね ｣









何も云い返せなかった。何か云わなければと思ったけれど、言葉が出てこない。全部、その通りだったから。


松風の俺を見る眼にそういう色が混じっているのには、ずっと前から気付いていた。彼女から想いを寄せられていると気付いた時、素直に嬉しかった。今まで恋人など出来たことは無かった。付き合うという言葉を用いてまで一緒に居たいと思える相手に出会ったことがなかった。
だけど、松風は違った。あの日、彼女は俺を見て笑った。それから顔を合わせる度に、笑顔が増えて、同時に減らず口も増えたけれど素直に話す彼女が、眩しく見えて。

気付いていた。彼女の気持ちに。
でも、自分の気持ちは分からなかった。

これが、なんていう名前の気持ちなのか。









｢ いつまでも逃げないでください。逃げ出したいのは、Aだって同じなんですから ｣

｢ ……少し、考えさせてくれ ｣









結局そんな言葉で逃げた。

情けねえ、自分が酷く惨めに見えた。

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