雨晴のアイロニー/gr ページ6
｢やあお嬢さん。｣
幻覚が、聞こえた気がした。
雨がしとしと降り止まない。晴れだからと過信し、駆け出した夏の日。清々しい程燦々の太陽を浴びていたはずが、すっかりと空は困り顔。灰色の空へと変わり果て、次第に涙を作り出す。身一つで飛び出した私に、傘を持ってくるという芸当は無く、近くにある見慣れた錆びた標識の向こう側へと歩く。その先にあるのは煤けた鳥居。その先は今まで1度も訪れた事の無い静寂な神社だ。雨による暗さが相乗効果となってその神社に纏う不気味なオーラを増大させていた。屋根に当たる雨の音が一定のリズムを作り出す。空模様と相談しながら帰る瞬間を見定めていた、その時だ。雨の音に負けない、凛とした声が響き渡る。後ろを振り返れば、端正な顔立ちをした男が袴姿で立っていた。
｢…あ、えっと…ここの神社の方、ですか？｣
｢まぁ、そう言っても過言では無いな。｣
｢すみません、直ぐに出ていきますから…！｣
神様の住んでいる場所でもあるのに、雨宿りの為だけに訪れるだなんてなんて罰当たりなのだろう。神様、何でもしますから私利私欲の為だけに立ち入った私を許して下さい。神道を信仰している訳でも無しに、心の中で謝罪を述べた途端、随分と迫力のある金髪を揺らした男は大層満面の笑みで私を見下ろした。
｢見た所、通り雨にでもやられたんだろう？少し休んでいくといい。｣
その男は自分の事をぐるっぺんと名乗った。随分と洋風な名前だとは思ったもののそれを問うた際、彼はからりと笑って｢本名で書くと色々と難しいからな。親しみを持って貰う為にも本名から文字を取って名乗っているんだ｣と告げた。私は彼をぐるちゃんと呼んだ。彼は何処か嬉しそうだった。
聞くに彼はこの神社に寝泊まりをしているらしい。神社の事情は良く走らないが、きっと神社に勤めている方なのだろう。そうなれば彼が私より歳上である事は想像に難くなかった。何とも威圧感ある姿形をしているものの、話してみると案外人は見た目によらないものだと知った。
気付けばいつの間にか雨は上がっていた。彼は何処か弱った顔をしながらも手を振ってお見送りをしてくれた。灰色が一瞬で青に染まったその瞬間をバス停でぼんやりと眺めていたのをよく覚えている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しをじゃけ(プロフ) - 夢喰いbakさん» 返信遅れまして申し訳ありません...！そう言っていただけるととても嬉しいですし、励みになります！全ての作品に魅力があるのが伝わってとても嬉しいです〜！^^風邪引いちゃいますので服は着てください(笑) (2020年7月18日 2時) (
レス) id: df6ceccb61 (このIDを非表示/違反報告)
夢喰いbak - 素晴らしい企画を発案、実行、投稿して頂き、誠に…まっこっとっに！ (おふざけ)ありがとうございます!!!! 全ての作品に楽曲の素敵さや儚さが詰め込まれていて心にキました…。第二弾！全裸待機していますよ…!!(笑) (2020年7月15日 0時) (レス) id: 582bb38728 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
