夏の記憶/ut ページ12
「遅すぎやって」
『担任に捕まっちゃって…』
一緒に帰る約束なんたしていないのに先輩はいつも私を待っていてくれる。
『別にわざわざ待ってくれなくて良いですよ』
「またまたぁ、そんなこと言ってほんまは嬉しいんやろ？」
先輩は靴紐を結ぶ私を見下ろしながら藍色の瞳を細めて不敵に笑う。
大正解。でも、
『自意識過剰すぎです』
素直になれない私は今日も嘘を重ねる。
そんなやりとりをしながら校門をくぐり、いつものように寄り道をする。
小さな駄菓子屋に寄ってソーダ味のアイスを買い、向かう先は木々を抜けた先にある小さな神社。
アイスのお釣りを賽銭箱に投げ込んで、濡れ縁に腰をかける。
ふと視線を横に向ければ、夏の茹だるような暑さを掻き消すように服をパタパタと扇ぐ姿があった。
ふわりと香る香水の匂いとほんの少しの汗の匂い。
そんな些細なことにすらドキドキしてしまう。
でもそれを悟られたくなくて赤くなった頬を夏の暑さのせいにしてアイスを齧る。
『先輩はもう進路決めたんですか？』
「そらぁ、もう夏やからなぁ。流石に決めんとまずいやろ」
『へぇ、どこの大学なんですか？』
「秘密。教えてしもたら受からんかった時ダサイやろ？」
先輩は食べ終わった後のアイスの棒を指で弄びながらそう言った。
ほら、先輩はいつだって大切なことを教えてくれない。
空が夕焼け色に染まり始めた頃
「そろそろ帰ろか」
そう言って先輩は鞄を手に立ち上がった。
まだ帰りたくないのに
そんな思いに蓋をして『そうですね』と笑えば
「そんな寂しそうな顔せんでも明日も会えるやろ？」
と困ったように笑い、しなやかな手で私の髪を優しく撫でる。
ああ、先輩は私の心なんて全て見透かしているんだ
たった１歳、されど１歳。
先輩は私なんかよりずっと大人で、子供のままの私はいつまでも追いつけないでいる。
夏の匂いを感じながら、鳥居を抜けてバス停へと向かう。
陽の落ちる坂道を登った先にはぽつんと立った寂れたバス停の標識。
先輩はバス通学じゃないくせに、女の子が1人で待っているのは危ないと言ってバスが来るまで一緒に待っていてくれる。
バス停裏のベンチに座ってたわいもない話をする。
ふと視線をあげれば夕日と夜空が混ざった不思議な色の空が目に入った。
私はこの空が好きだった。
先輩とバス停裏から見るこの空が好きだった。
きっと夏が終わっても私はこの夏空を、2人で見た空をきっと覚えてる。
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しをじゃけ(プロフ) - 夢喰いbakさん» 返信遅れまして申し訳ありません...！そう言っていただけるととても嬉しいですし、励みになります！全ての作品に魅力があるのが伝わってとても嬉しいです〜！^^風邪引いちゃいますので服は着てください(笑) (2020年7月18日 2時) (
レス) id: df6ceccb61 (このIDを非表示/違反報告)
夢喰いbak - 素晴らしい企画を発案、実行、投稿して頂き、誠に…まっこっとっに！ (おふざけ)ありがとうございます!!!! 全ての作品に楽曲の素敵さや儚さが詰め込まれていて心にキました…。第二弾！全裸待機していますよ…!!(笑) (2020年7月15日 0時) (レス) id: 582bb38728 (このIDを非表示/違反報告)
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