上から落ちて、下から落ちて (ページ16)

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TWeLvE ページ16

その日、Aは仕事があった。

「こんにちは、烏山さん」
朝早く自宅まで向かいに来た響に挨拶をする。
「こんにちは。今日はモデルのお仕事と歌番組の打ち合わせがあるからねー」
「了解です」
Aが車に乗り込むと、車は颯爽と発進した。

二人はしばらくの間黙っていた。
信号が黄色になり車が止まる。すると車に流れるラジオが急に小さくなった。Aは顔をあげ、ミラー越しに響を見る。ボリュームを弄っていた響はミラーに映った、高校生にしてはやけに大人びた雰囲気の彼女に問いかけた。
「...Aさ、本当にいいの？」
「...どう言うこと？」
響はとても言いづらそうに話す。
「折角何だからちゃんと君の家族に伝え...」
「あんなの家族じゃない！！」
急なAの怒鳴り声に響はびくっと体を震わせた。
Aはふと我に返ると血の気がさぁっと引き、すぐさま謝った。
「ごめんなさい！また私...」
「いや、Aは悪くないよ。聞いた俺が悪かった。ごめんね」
「いえ、すいません...」
Aはさらにしゅんとし泣きそうな顔になる。響はそんな顔をミラー越しに見ていた。
そうしているうちに信号が青になり、車が動き出す。すると
「...A、元気出せ。マショマロ食べるか？」
そう言いながら、鞄からマシュマロの袋を取り出す。
「...烏山さん、それマシュマロですよ」
「あ、またやった。よくいい間違えるんだよ、小さい頃ずっとマショマロって言ってたから。ほら」
「いつものことじゃないですか」
少し笑顔になったAは、響からマシュマロの袋を受けとるとジッパーを開いて、１個口の中にほおりこむ。Aの顔が少し緩む。
「ん、おいひい」
「口の中に物入れたまま喋るんじゃない。」
そんなAを見た響も少し微笑む。

そんなたわいのない話で一日が過ぎていく。
Aはこんな日々が続くと思っていた。しかしAが知らないところで運命は回り始めていた。