上から落ちて、下から落ちて (ページ14)

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大和以外の６人はそれぞれ昼御飯の準備に取り掛かっている。部屋には甘い香りが広がっていた。
大和はソファーに座って新聞を読んでいる。
そして紙面の片隅にこんな記事を見つけた。

【○月×日朝刊 △△スポーツ紙

アイドル界に期待の新星あらわる！？

昨日の生放送でネット界隈で話題となった少女、なでしこ。彼女の歌声に魅了されて今ファンが急増。テレビ初出演の彼女は本名非公開、また本番中は仮面をつけているためファンの間では、仮面少女という愛称で呼ばれている。彼女自身が作詞作曲した1stシングル『CaRess DReam』は週間オリコンチャートのTOP10入りを果たしている。さらに今度の月９への参加も決まっている。今後の活躍にも目が離せない。】

「へぇー、なでしこちゃんすごいね」
横に三月が泡立て器で生クリームを混ぜながら歩いてきた。
「なでしこちゃんの所属事務所はクロウアカデミアですよね」
「クロウアカデミア？」
陸が聞き返す。
「烏山一族の創立43年の芸能事務所だよ。烏山社長にはあったことあるけど...」
「俺も何回か見たことあるわ。」
「どんな事務所何ですか？」
伊織が尋ねる。
壮五と大和は口ごもり、互いに顔を見合わせると苦笑いした。
「あの社長はちょっとね...」
「個性が強いと言うか...」
「個性が強い？」
陸はキョトンとした。その瞬間に焦げた匂いが大和の鼻をかすめた。
「あ！焦げる！」
「ちゃんと料理に集中しろよ～、俺みたいになるぞ～」
大和が陸を冷やかした。
三月は泡立てながら思い出したかのように大和の右手を見る。
「...その傷は料理中に出来たことにするんですよね」
「あ、もうマネージャーから聞いたんだ」
大和は右手を高く掲げひらひら振ると、再び元の場所へ戻した。
「ま、それが一番無難かな、と思って」
三月は納得しなかったのか困ったような顔をして黙る。すると
「ミツーキー！ハムエッグはどうするんですかー」
大和と三月が振り向くとナギと環が卵を両手に構えていた。
「あぁ待て！そうやって割ったら...」
三月はすでに泡立て終えている生クリームのボウルを抱えて小走りにキッチンへ向かった。
三月がいなくなると何かを決心したようにスマホを片手に部屋の外へ出ようとした。
「あれ、やまさんどこ行くの？」
「ちょっと連絡しなきゃいけないところがあるから外で電話してくるわ」
環にそう答えると返事を聞かず部屋を出る。

ドアを閉めた大和は深呼吸をすると、歩きながらとある番号を打った。