上から落ちて、下から落ちて (ページ11)

今日:9 hit、昨日:2 hit、合計:9,133 hit

EIGhT ページ11

「ただいま～、ってなでしこちゃんは？」
大和と伊織は4本ずつペットボトルを抱えて帰ってきた。
「次の仕事があるって帰った」
環が答える。
「そうか。えーっと、スポーツドリンクの人ー」
「はーい」
大和と伊織は、1つずつペットボトルを配り歩く。
先に受け取った三月はキャップを開けると、一気に飲んだ。
「美味しー」
「あ、三月が飲んでるの俺たちのCMのやつじゃん！」
陸は気付くとCMのセリフを言った。

～あなたはどれで水分補給をする？～
「俺たちと一緒に夏しない？」
「俺たちとおんなじの飲む？」
「もちろんお前はこっちだよな？」
「いろんな味を楽しんで！」
「みんなで水分補給！！」

最後に全員で商品名を叫ぶ。
7人は顔を見合わせて笑った。

水分をとり終わり、少し落ち着くと、それぞれ楽屋を片付け始める。
最後に大和があることに気づいた。
「あ、そうだ。誰か緑茶飲みたい人いない？余ってるんだけど」
6人は首を振った。
「今はいいかな」
「持って帰って冷蔵庫に入れとくか」

大和は緑茶を手に取り、リュックのサイドについている、ペットボトルホルダーへ仕舞おうとした。
その瞬間、

「ー痛っ！」

大和の右手から血が吹き出した。
大和は手を押さえてしゃがみこむ。
「！大和さん、どうしたんですか!？」
「血が...！ティッシュ取って！」
「大丈夫、そんなに慌てるな」
大和は冷静に受け取ったティッシュで傷口をふさいだ。純白のティッシュはみるみるうちに、鮮やかな赤に染まる。
「見て」
大和は三月に左手で鞄を指差し、見るように促した。
三月は恐る恐る近づく。
「気をつけて。まだあるかもしれない」
三月が慎重に鞄を全開にすると、中を覗いた。
「これは...カッターの刃!？」
「...マネージャーを呼びましょう。ナギくん、お願いしていいかな？」
「任せてください、ソウゴ」
ナギはマネージャーに電話をかける。
伊織は近くの箱ティッシュを掴む。
「二階堂さん、新しいのを用意します」
環は使えそうなタオルを引っ張り出し、大和の近くにおく。
陸が絆創膏を持って大和のそばへ駆け寄ると、大和はティッシュをそっと剥がした。
醜い傷口が露になった。
「ほら、そんなに酷いって訳じゃないだろ？」
大和はおどけたように笑う。
６人は黙った。
「...俺の注意が足りなかった、それだけだ」
大和は誰かを庇うかのように言う。
６人は何も言えずただただ、大和が黙々と怪我の処理をするのを見ているしか出来なかった。