第31話 入学準備 ページ33
甘味処から出て、鸕宮邸に帰ると、既にA用の制服や鞄が用意されていた。
「おぉ。似合うじゃねえか。キツネ子。」
試しに制服を着てみたAを見て、天馬が言う。
Aは、恐ろしいくらいサイズがぴったりな制服を見て、「この島はサイズ感の正確さが異常だな……」と、また背筋が冷えたような感覚がした。
「あ、ありがとうございます…………明日から、私もいよいよ…………!」
期待と、不安。相反する感情がAの心の中でうずまき、もやもやとそこに居座る。
「まあ、お前なら大丈夫だろ。何も心配いらねえって。」
「……そうですよね。気にしてもしょうがないですよね………強くなるために、この学院で、更に己を高めてみせます。」
高らかにそう宣言すると、少し胸の内が軽くなった。
天馬はにっ、とAに笑いかけ、Aの頭に手をポンと置いてから部屋を出て行った。
その後の準備は一人で済ませ、ランニングでもしようかと、鸕宮家でもらった運動着を着てランニングシューズに履き替え、日が傾き始めて空がオレンジ色に染まり始めた夕日の中を走り始めた。
鸕宮家からもらった運動着は、伸縮性のある生地の黒いショートパンツと青くて白のラインが入ったタンクトップで、すごく動きやすかった。
ただタンクトップで走るのは少し気が引けたので上にはパステルブルーの上着を着ている。
メインストリートとは別方向の道を走り、息が切れるまで数十分間の道を走っていると、海が見えてきた。
あまり整備されていなかった海岸は自然がありのままの姿を残しており、海は夕日に照らされオレンジ色に鱗を作っている。
夕日を一望できたその場所は、綺麗な景色なのにも関わらず誰一人人間がいなくて、Aには居心地の良い場所だった。
岸に着くと、Aは静かに腰を降ろした。
崖下を見ると、白い砂浜が広がっており、その先には海がある。
心地よい風と磯の香りが、Aの心をより穏やかにしていった。
岸に体育座りになったまま、ぽそりと呟く。
「………ここに来て、たくさんのことがあったよ。おばあちゃんは見てくれてるかな………?」
(若葉なら、きっと見ていますよ…………。あんなに貴方を大切にしていたのだから………。)
おばあちゃんではないけれど、ウカミがそう答えた。"若葉"というのは、おばあちゃんの名前だ。
「うん………そうだと、いいな……………。」
今にも沈みそうな夕日の中で、Aは祈るように呟いた。
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あとり - ありがとうございます!大変遅くなりましたが更新させていただきました! (2018年2月13日 0時) (レス) id: ce2f790ea1 (このIDを非表示/違反報告)
(* ´ ▽ ` *) - 続きはまだですか?とても面白いので、更新頑張ってください! (2018年1月28日 15時) (レス) id: 18290c3fc7 (このIDを非表示/違反報告)
ちっち - あとりさんこの小説大好きなので、頑張って更新してください! (2017年12月29日 9時) (レス) id: d069e4a0a4 (このIDを非表示/違反報告)
あとり - 夜実さん、すみませんでした!ご指摘ありがとうございます!気をつけます! (2017年3月30日 0時) (レス) id: 493c050031 (このIDを非表示/違反報告)
夜実 - 47なのに46になってますよ〜(このコメント消していいです) (2017年3月29日 23時) (レス) id: 180bd39056 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あとり | 作成日時:2017年2月17日 7時