【派生作品】Er und Ich. / 彼と僕。

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　ミヒャエルは澪の前まで来ると「ちょっとごめんネ(Entschuldigung)」と微かに言って、覆いかぶさるようにソファへ膝立ちになった。包装のビニールが床に落ちる。淡い色をした澪の髪に、下ろしたままのミヒャエルの栗毛が降りかかり、交ざる。ミヒャエルが左耳に親指の爪で跡をつけると、澪はきゅっと目を瞑った。

「こことかどウ？ 名前は知らないけド」
「好きにしていいよ。どうせ僕分かんないし」

　そんなやり取りをしながら、ミヒャエルがニードルの先を澪の耳に当てる。そして

「澪ってさア、警戒心薄いよネ。別に変なコトとかしないけド。『友達』だかラ？」

と問うと同時にぐっと押し込んだ。

「……っ、」

　反射的に澪が飛び退くように動く。ニードルの先が食い込んだ柔らかな皮膚に急に血がにじんで、みるみる雫として白く繊細な顎を滴る。澪のパーカーの襟へ落ちるより先に、ミヒャエルが筋張った手の甲でそれを拭う。

「ア、急にやっちゃってごめんネ！ 動かないデ、通しちゃうかラ」

　例えるなら固いスポンジを貫くような感触と冷たいものが通る感覚、それからすとんとピアスの残ったのか分かった。手をやろうとすると、ミヒャエルの手に捕まって軽く膝に戻される。同じその手が、ローテーブルの上からティッシュを何枚か取って、澪の耳にあてがった。

「まだ血出てるから駄目だヨ。俺もう手汚れちゃったから押さえといてあげル」
「怖いってか、普通に痛いじゃん」
「アハハ、やっぱリ？ 俺最初に安全ピンでインダストリアル開けたタイプだから分かんなイ」

　ミヒャエルが目の前から退くと、少しむすっとした顔付きの澪は再びスマホを手に取り、慣れた動作で音ゲーのアプリを開いた。その画面を覗き込みながら、

「ひとに止血されてる最中でもゲームうまいんダ」

　と言ってミヒャエルが笑った。

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